高山病について
高度が高くなると気圧が低下します。気圧が低下すると、細胞のミトコンドリアまでの酸素輸送カスケードのあらゆるポイントで酸素分圧が低下します。
高度2,500m以上の高地を訪れた後、数時間から5日以内に以下の急性高山病の3形態のいずれかを発症するリスクがあります。
よって富士登山から日帰りで無事に下山したからと言って、1週間程度は安心できないので体調の変化に十分な注意が必要です。
- 急性高山病 (AMS):頭痛、倦怠感、めまい、吐き気などの非特異的な症状を伴う症候群
- 高地脳浮腫 (HACE):運動失調、意識低下、磁気共鳴画像の特徴的変化を特徴とする、致命的となる可能性のある疾患
- 高地肺水腫 (HAPE):過度の低酸素性肺血管収縮によって生じる非心原性の肺水腫で、認識され速やかに治療されなければ致命的となる可能性がある
※適切な治療を行わないと、HACE等は発症後 24 時間以内に死に至る可能性があるので高地に登るといった行為を安易に考え富士登山を軽装や弾丸登山する事は控えましょう。
過去の論文を調べたところ高山病にならない為には、1日500メートル以下の低速登山が有効です。そして3日おきの休息、過度の運動回避が提唱されていました。
これは、世界最高峰エベレスト(ジョージ・エベレストから名づけられた)やK2(パキスタンと中国の国境に位置する、最も登るのが困難だと言われる山の一つ)等に登る場合には必ず心がけたい内容です。
今回は富士山(3,776m)ですが、まずは富士宮口5合目(2,400m)までシャトルバスで向かいます。
しかし、人によっては、十分に高山病が起こりえる高度だと言えるでしょう。
高度順応のスピードは人によって異なり、順応していない場合には、10~20%の人が急性高山病を発症すると推定されています。
実際にR6/8/29に台湾からの旅行者が6合目付近で突然亡くなられました。
富士登山で台湾からの旅行者死亡 6合目で「突然意識失った」
29日午後1時40分ごろ、静岡県の富士山御殿場ルート6合目付近で「一緒にいた人が突然意識を失った」と山小屋の従業員を通じて110番があった。御殿場署によると、トラック運転手の男性(49)の死亡が確認された。 台湾から旅行で訪れ、友人数人と登山中だったという。県警山岳遭難救助隊が経緯を調べている。 共同通信社
高山病になってしまった場合は、より低い酸素が豊富な高度まで降りる必要があります。
AMS:急性高山病の症状が出た場合、医薬品による対処療法として頭痛にはNSAIDs、吐き気には制吐剤を使用する事ができます。
急性高山病の予防
非薬物療法
急性高山病を発症する主な危険因子は過度に急速な登山であるため、目標高度までゆっくりと登山することが高山病予防の最善の方法です。
2,500~3,000mを超える登山では、就寝高度を一晩につき300~600m以上は上げない様にし、3~4 日ごとに休息日を設けて、同じ高度で少なくとももう 1 晩は眠る様にする必要があります。
特に過去に高山病になった経験がある場合は、富士登山であれば6合目から7合目辺りで一泊して、さらに8合目から9合目でもう一泊すれば安心かもしれません。
5合目までで、事前順応として前泊しておく事も、急性高山病の発生率を低下させます。
高山病予防薬 ダイアモックス(アセタゾラミド)
AMS:急性高山病を発症するリスクがある人は、予防として炭酸脱水酵素抑制剤【ダイアモックス:アセタゾラミド (Acetazolamide)】を、125mg/回 1日2回 服用する事が多い。
予防のための適切な投与量については議論の余地がありますが、多くのエビデンスでは、 1 日 2 回 125 mgと言われています。
通常、計画された登山の前夜に開始し、下山が開始されるまで、または目標高度に2~3日間滞在するまで継続されます。
過度に急速な登山や非常に高い最終高度への登山には不十分な場合があります。
ダイアモックスのインタビューフォームによると、米国で発売されているアセタゾラミドの急性高山病に対する服用方法として1日に500~1000mg投与との記載もあります。
※日本では、三和化学研究所より、ダイアモックス末と250mg錠が販売されています。
出典:三和化学研究所
作用機序について
作用機序は、生体内で(CO₂ 炭酸ガス+H₂O 水⇒炭酸H₂CO₃)に関わる炭酸脱水素酵素を阻害する事で、HCO₃⁻ 重炭酸塩の排泄を増加させ、軽度の代謝性アシドーシスを起こします。
アシドーシスにより血液の酸性度が高くなると、呼吸数が増加して血中の酸素濃度が改善します。
ダイアモックスは、肺気腫(喫煙等により肺組織が破壊され、酸素を血中に取り込んだり、二酸化炭素を排出する事が難しくなる病気)に対して適応:肺気腫における呼吸性アシドーシスの改善があるので同様の効果があります。
効能または効果
<ダイアモックス末>緑内障、てんかん(他の抗てんかん薬で効果不十分な場合に付加)、肺気腫における呼吸性アシドーシスの改善、心性浮腫、肝性浮腫、月経前緊張症、メニエル病及びメニエル症候群<ダイアモックス錠250mg>緑内障、てんかん(他の抗てんかん薬で効果不十分な場合に付加)、肺気腫における呼吸性アシドーシスの改善、心性浮腫、肝性浮腫、月経前緊張症、メニエル病及びメニエル症候群、睡眠時無呼吸症候群
参考:Altitude sickness and acetazolamide PMID: 29853484
富士登山 日帰りプリンスルートへの挑戦
2023年に人生初の富士登山に挑戦しましたが、赤岩八合館(標高3300m)にて高山病となり、強風に雨と私の戦意は挫かれ撤退する事となりました。
そして2024年は、人知れず低山にて訓練を繰り返した私は、再び日本最高峰の富士山(3776m)へと挑戦する事にした。
今回の挑戦するルートは、富士宮口5合目をスタートして御殿場ルートに合流後、富士山頂(3,776m)を目指すプリンスルートになります。
前回の反省点
前回の失敗の要因を考えると、①天候 ②若干の寝不足からの高山病が考えられたので、その2点を解消するプランを立てました。
週間天気予報にて、晴れで最も風の緩やかな日を登頂日としました。
そして寝不足と高山病を防ぐために、前日に現地入りしてホテルなどで存分に寝てから朝一番のシャトルバスで富士宮5合目へと向かいます。
前回は山小屋で寝た後に高山病が発生したので、前回の赤岩八合館を超えても元気であればそのまま山頂へ、高山病が発生したら下山するプランへと変更しました。
富士山登頂へのリベンジ
新幹線こだま号にて、一人で静岡県へと訪れました。
ぷらっとこだま(新大阪駅07:54⇒静岡駅10:23)は、ドリンク付きで8,810円です。
折角なので駅周辺で観光してから、富士宮へと行こう。
MAPを見ると駿府城跡が近くにあり、歩くと駿府城公園が見えて来ました。
無事に公園内の徳川家康像も見学できました。
その後、JR在来線で富士宮駅へと向かいます。
富豪であれば、新幹線で直接新富士駅に行く方が良いでしょう。
電車に揺られて「富士駅」で東海道本線から身延線へと乗換えて無事に本日の目的地である「富士宮駅」に到着しました。
朝一番の富士宮5合目行きのシャトルバスの往復チケットをあらかじめ購入する。
ここが、本日のお宿「ヤド」です。
ここでしっかりと睡眠をとってから富士登山に挑戦しようと思います。
富士山登山の記録
小刻みに震えるスマートフォンの振動で朝5時に目覚めた私は、シャワールームの温かいお湯を浴びてようやく覚醒しました。
富士宮口五合目
予定通り7:55 富士宮口五合目に到着。
気温は涼しいのですが、かなり日差しがあるので登り出せば暑くなると思われます。日焼け止めと、帽子は必須アイテムです。(※ヘルメットは無料で貸してもらえます)
プリンスルートとは?
プリンスルートとは、名前の通り皇太子徳仁親王(なるひと しんのう)殿下が富士登山の際に利用されたルートです。
スタート地点は、富士宮ルートと同様に富士宮口五合目から出発するが、六合目から宝永山火口を通って御殿場ルートへと抜けるコースです。
このコースの良い所は、富士宮口五合目2,400mからスタートできる上に登山道がすいてるのです。
移動距離は長くなりますが、渋滞が予想される富士宮ルートよりも早く到着できるかもしれません。
ネット情報によると行動時間も富士宮ルートと大体同じ程度で、登り6時間・下り3時間半を見ておけば良いとの事。
私に当てはめると、出発時刻は9:00なので帰りは18:30の予定です。
富士山保全寄附金
案の定、プリンスルートは空いていました。
六合目からは御殿場ルートまで横移動なので、この間にも高度順応が進み高山病の危険性が減る様な気がします。
ただ前回は、帰り道(下り)に宝永火口を通過したので楽だったのですが、登りの宝永火口は中々にきつかった。
足元が砂地のように脆弱で、踏み出した足がずり下がって中々前へと進む事ができません。
この区間は「この数センチを積み重ねれば、やがて3,776mに到達するのだ」と自分に言い聞かせながら足を前に踏み出し続けました。
前回の強風が吹いた宝永山 馬の背を抜け、御殿場ルートに合流し登って行くと段々と岩場が増えて来ました。
この辺りになると、足元がしっかりしてきたので登りやすくなります。
そして、わらじ館⇒砂走館⇒赤岩八合館と難なく登って来る事が出来ました。
前回は、ここ赤岩八合館に宿泊して高山病になり登山終了となりましたが、今回は幸いにも高山病の症状は出る事なく登り続ける事ができそうです。
赤岩八合館を横目に、このまま登って行きます。
富士山頂に到着
私は山頂に着くと、すぐに郵便局へと向かいました。
去年出しそびれた、ハガキを富士山頂から投函するためです。
山頂から郵便物を出すと風景入通信日付印を押してもらえるのです。(※登山の当日はポストが故障中の為、郵便局に直接出しました)
富士宮ルートにて下山開始
私は、水分補給をしてプリンスルートでなく富士宮ルートで下山する事にしました。
「もしかしたら、最終バスに間に合わないかもしれない」と思いながらも、足への負担を減らすためにストックを巧く使って下山を開始しました。(※初心者はストックがあった方が絶対に良いと思います)
十分な睡眠をとっていたので、体力、気力共に残っています、山頂⇒9合目⇒8合目⇒7合目を、2時間半程で下る事が出来ました。
最終バス 出発時刻19:00まで、残り50分です。
「間に合わなければ、タクシーで帰るしかないか…」
私の中で若干の諦めムードが漂いながら7合目のスタッフさんに「5合目までどの位かかりますか?」と聞いたところ「健脚の方で、30~40分くらいかな?」との回答をいただけました。
それならば、何とか間に合いそうです。
レモンウォーターのペットボトル(500円)を購入して休憩後、再び富士宮口五合目を目指しました。
この時刻になると、登山者もかなり少なくなっていたので渋滞もなくスムーズに下山する事が出来ました。
周りの下山している方々も、何とか19:00の最終バスに乗車するために頑張って下山しています。
みんな頑張れ~!
心の中で励まし合いながら、我々下山組は無事に富士宮口五合目に到着しました。
富士宮口五合目
辺りは、すっかり暗くなってきました。
19:00出発まで下山してきた登山者達を待っていたバスは、やがて満員となりました。
水ヶ塚公園行きのシャトルバスも全員が乗りきれなかった為に、我々の乗車する富士宮駅行きのバスが急遽 水ヶ塚公園を周って帰る事となりました。
皆よく頑張った、きっと各々にドラマがあったのだろう。
再び山道をバスに揺られながら疲れ切った私は、どうしても温泉に入りたくなりました。
「日焼け止めを落としてから、ぐっすり眠りたい」
「富士宮駅からの夜行バスに乗る前に、絶対に温泉に入りたい」
ガンガンに冷房が効いたバスの車内で冷え切った私の体を通して、その欲求はさらに強いものへとなっていきました。
しかし、残念ながらGoogleで検索しても富士宮駅の周辺には温泉施設がありませんでした。
やむを得ず、バスを途中下車して富嶽温泉 花の湯 立ち寄り湯80分(※土日1,100円)に入る事にしました。
富嶽温泉 花の湯さんには、多くの富士登山帰りのお客さんで溢れていました。
私もヨレヨレになりながら脱衣場で服を脱ぎ、冷水器で水を十二分に飲んでから天然温泉にゆっくりと浸かりました。
おわり
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