結核は既に終わった感染症であると思われていましたが、最近は免疫力を持っていない若い人の間でも感染の報告が増加しています。また地域によってはまだまだ感染者の多くいる地域が日本には存在しています。
LTBIは結核と関係のある言葉で潜在性結核感染症 (latent tuberculosis infection:LTBI)の略です。症状は出ていないのですが、感染状態である場合を指します。
LTBIの状態であれば排菌していないので人に移す事はありませんが、結核菌が活動しだした場合は人に移す可能性が出てきます。
通常は免疫力があれば追い出して感染する事は少ないですが、免疫力が落ちている状態の人であればネットカフェや映画館など人が密集している場所で知らない間に感染する事も考えられます。
医療従事者であれば、咳がよく出ている自覚のない活動性の結核患者と接触して感染する事が十分考えられます。
LTBIも新たな感染の場合には2年以内に1割程度が活動性の結核に移行するとされているので自身がLTBIである事を知っておく必要性は有用だと考えられています。
特に発病リスクの高いグループが検査をしておけばLTBI治療はその6割程度を感染予防する事にもなります。LTBIの診断にはIGRA検査があります。IGRA検査にはQFT検査と T-SPOT検査の2種類があります。
レベルA:積極的にLTBI治療の検討を行う
● HIV/AIDS・臓器移植(免疫抑制剤使用)
● 珪肺・血液透析を要する腎不全
● 最近の結核感染(2年以内)
● 胸部 X 線画像で線維結節影(未治療の陳旧性結核病変)
● 生物学的製剤使用レベルB:リスク要因が重複した場合にLTBI治療の検討を行う
● 副腎皮質ステロイド(経口・吸入)
● その他の免疫抑制剤
● コントロール不良の糖尿病
● 低体重・喫煙・胃切除レベルC:直ちに治療の考慮は不要
● 医療従事者
潜在性結核感染症治療指針より引用
医療従事者であれば直ちに治療する必要はないとされていますが、LTBIへの理解や自分自身がLTBIである事を知っていれば症状が出たときにすぐに検査を申し出て発見と治療がすぐに可能となります。
発病すれば内服で6ヶ月から9ヶ月の治療期間が必要となります、入院を余儀なくされれば日常生活にも影響を及ぼす事が考えられますので医療従事者はこういった可能性を心の片隅にとどめておきましょう。
普段から栄養状態を良くして睡眠をしっかりとりストレスをためない生活を心がけようと思います。
ニホンサルにも結核菌が感染する!
大阪府は全国最多である毎年約2000人の新たな結核患者が発生しています。その大阪にある天王寺動物園では10年以上前に飼育展示中のニホンザルが死亡し、そのニホンサルから抗酸菌感染症(結核含む)を疑う結節性の肺病変が認められました。
通常であれば結核菌は紫外線によって死滅するため野外では存在しないとされているのですが、来園者などで排菌している結核患者から直接くしゃみなどで飛沫感染をする事で感染したのではないかと思われました。
しかし天王寺動物園によるとニホンザルが飼育されている檻の金網と人止め柵との距離は1.6mあったので可能性は低いそうです。
ただ医学領域において飛沫の飛距離は1m以内と言われていますが、成人男性の飛距離が2~5mである事を考えれば感染の可能性がない事はなさそうです。
(1)飛沫の飛距離
まず,飛沫の定義ですが,一般に直径5μmよりも大きな水滴とされています(文献1,2)。飛沫の落下速度は(無風状態で)30~80cm/秒であることから(文献1,2),立った状態の成人の口から出た飛沫が地面に落ちるまでの飛距離は2~5m程度ということになります。医学領域においては,よく飛沫の飛距離は1m以内と言われますが,これは飛沫感染,つまり保菌者の口から出た飛沫が周囲の人の口や鼻に到達して感染を引き起こしうる距離のことだと考えられます(文献2,3)。
ニホンザルのうち1頭が死亡したあとに、他のニホンサルにも結核の疑いが出てきたのでヒトと同じように、抗結核薬のイソニアジド(INH)、リファンピシン(RFP)による治療を開始したそうです。
しかしニホンザルは薬を飲む事を嫌がりDOTS療法もできず、薬剤耐性菌を生じる可能性や担当獣医師への感染危険性が高いことなどから治療を断念、隔離していたニホンザル全頭の安楽死処分を決定となりました。
こういった事例があることからも、出来る限り人ごみ(満員電車、映画館や漫画喫茶など日光の当たらない密閉された空間)を避ける、動物であっても近くに寄り過ぎないように注意して生活しようと思いました。
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