慢性心不全の研修会
コロナ禍の影響で土曜日の研修会がZOOM等で開催される事が日常になったので、今までは時間や場所の制約により参加できなかった研修会にも気軽に参加できるようになりました。
先日の研修会で慢性心不全の治療で使用されるエンレスト錠についてのお話があり、講師の先生がARNIを「アーニー」と呼んでいるのを聞いて今更ですが正式?な読み方を知りました。
ARB(エーアールビー)のようにARNI(エーアールエヌアイ)と呼んでいたので、文字だけの勉強だとわからない事がわかるのもウェブセミナーの良い所ですね。
ちなみにミュージカルのアニーはとても感動するので皆さんも是非一度見てください。「トゥモロ~トゥモロ~♪」しか知らなくても大丈夫です。
映画や舞台で何度もリメイクされているのでDVDやブルーレイも発売されています。
薬局の人間関係に疲れたり、薬局業務に忙殺されてぐったりしている皆さんも「アニーも頑張っているんだ、明日からも頑張ろう!」という気持ちになります。
話が逸れてしまいました。
サクビトリルはネプリライシン阻害薬
研修会ではエンレストの成分であるサクビトリルがネプリライシンを阻害すると、ナトリウム利尿ペプチドであるANPやBNPの分解が抑制されるといった作用機序の話から始まりました。
ネプリライシンとは体内のいろんなペプチドを分解する酵素です。
ANPが増加する事で慢性腎臓病(CKD)における腎保護作用を期待して使用している、BNPが増加傾向になるので心不全のマーカーとしてのBNPは機能しなくなる‥
といったようなお話があったと思います。
※ナトリウム利尿ペプチドは、ナトリウム利尿作用だけでなく血管拡張作用、RAA系、交感神経やADH:バソプレシンを抑制する事で心臓への負担を減らすホルモンで以下の3種類が存在している
- 心房性ナトリウム利尿ペプチド(ANP)
- 脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP)
- C型ナトリウム利尿ペプチド(CNP)
サクビトリルの単剤は存在しないの?
エンレスト錠は、サクビトリルとバルサルタンを1:1のモル比で結合させた結晶複合体です。
バルサルタンを既に服用している人にサクビトリルだけ追加できないのかなと思いましたが、ネプリライシン阻害薬はナトリウム利尿ペプチドだけでなく、RAA系のアンジオテンシンⅡの分解も阻害してしまいます。
よってARBを一緒に使用しないと逆に血圧が上昇してしまう事が懸念されます。
飲み忘れなどのリスクを考えると合剤の方が効果や安全性でメリットがあります。
ARNI(アーニーとは?)
ARNI:Angiotensin Receptor Neprilysin Inhibitor(アンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬)の略です。
ARNIであるエンレスト錠の一般名は【サクビトリル バルサルタン】ですが名前が示すように、サクビトトリルとバルサルタン(ARB)の成分を含むお薬になります。
エンレスト錠について
Entrust[動]
他〈人に〉(金銭・命などを)預ける
≪with≫;〈仕事などを〉(人に)ゆだねる,〈子どもなどを〉(人に)まかせる,委託する≪to≫goo辞書より引用
「慢性心不全」に加えて2020年11月に「高血圧症」の効能効果が承認された事もあり、バルサルタンからの切り替えを処方箋で見かける事が増えてきたように思います。
用法用量
■慢性心不全(1日2回 経口投与)
・開始用量:1回50mgを1日2回
2~4週間の間隔で段階的に1回200mgまで増量
1回投与量は50mg、100mg、200mg、いずれの投与量でも1日2回経口投与
■高血圧症(1日1回 経口投与)
・開始用量:1回200mgを1日1回経口投与(最大400mg)
1日1回100mgでの開始を検討する患者さん
つい先日も高血圧症の患者さんでバルサルタン80mgからの変更⇒エンレスト200mg/日が処方されました。
ノバルティスのMRさんから頂いた指導箋をみると、高血圧症の場合に低用量(1日1回100mg)を開始用量とする必要があると記載があります。
低用量からの開始が必要
- 血液透析中
- 利尿薬を服用中
- 厳重な減塩療法中
低用量開始の考慮が必要
- 高齢者
- 重度腎機能障害患者
- 中等度肝機能障害患者
今回の患者さんは75歳で低用量開始の考慮が必要な高齢者に該当しましたが「おそらく変更はないだろうな…」と思いながら疑義照会しました。
エンレストの禁忌
- 血管浮腫のおそれ(併用により相加的にブラジキニンの分解抑制)
- エンレスト投与開始36時間前に中止する
- エンレスト投与終了後にこれらの薬剤を投与する場合は、エンレストの最終投与から36時間後までは投与しない事
- 非致死性脳卒中、腎機能障害、高カリウム血症及び低血圧のリスク増加
- 併用によりレニン-アンジオテンシン-アルドステロン系阻害作用が増強
エンレスト錠は50mg錠と100mg、200mg錠の生物学的同等性試験の問題などもあるので、処方があった時には色々と気を付ける必要がありますね。
おわり
参考文書:エンレスト錠インタビューフォーム、ノバルティスファーマ株式会社サイト
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