デュアック配合ゲルが処方されている若い患者さんから
「以前はベピオゲルやエピデュオを使ってました。デュアック配合ゲルには抗菌薬が入ってるみたいですが、長期連用ってどの位の期間使用しても大丈夫なんですか?」
との質問がありました。
デュアック配合ゲルには、先発品ダラシンにも含まれているクリンダマイシン(リンコマイシン系)が入っています。
抗菌作用のある薬剤では、耐性菌の発現を防ぐため最小限の使用にとどめる必要があります。
近年ではエンピリックセラピー(経験的治療)による抗菌薬の投与を減らし、初診時は経過観察をして経過が思わしくない場合にのみ抗菌薬を投与するDAP(Delayed Antibiotics Prescription:抗菌薬の延期処方)と呼ばれる手法で不必要な抗菌薬を減らしています。
そして一般の患者さんでも、薬剤耐性(Antimicrobial Resistance: AMR)に関する知識を持つ方が増えてきているので、抗菌薬の長期使用に関してしっかりと説明ができるようにする必要があります。
抗微生物薬適正使用の手引き 第二版
厚生労働省の抗微生物薬適正使用の手引きによると、感冒等のウイルス感染症に抗菌薬は効果はなく、むしろ副作用が多く報告される事からも抗菌薬投与は推奨されていません。
急性副鼻腔炎に関しても軽症であれば2週間以内に7割が自然治癒する事から、抗菌薬の使用ではなく経過観察が推奨されています。
仮に抗菌薬を使用する場合の治療期間は、従来の推奨期間(10~14日間)より短期間(3~7日間)治療であっても有効性は劣らず、さらに副作用が少ないとの報告からも短期間が推奨されています。
こういった病態で使用する抗菌薬の治療期間を知っていると、クリンダマイシンを含むデュアック配合ゲルをニキビでいつまで使っていいのか、患者さんが不安に思うのも仕方がありません。
では次に、この患者さんが使用してこられたニキビ治療薬について調べてみたいと思います。
ベピオゲル(BPO)とは?
まず抗菌薬の含まれないベピオゲル(BPO:過酸化ベンゾイル)が、ニキビ治療にはよく使われます。
ベピオゲルの名称由来は、有効成分の過酸化ベンゾイル(Benzoyl Peroxide)の略称BPOからBEPIO(ベピオ)となっています。
適応症:尋常性ざ瘡(ニキビ)
抗菌薬は含まれませんが、酸化剤であるBPOにも抗菌作用があります。
・抗菌作用:BPOの分解で生じたフリーラジカルがアクネ菌等の膜構造、DNA・代謝を直接阻害する事で抗菌作用を示します。
・角層剥離作用:BPOの分解で生じたフリーラジカルが、角層中のタンパク質を変性させて角質細胞同士の結合が弛み、角層剥離が促進される。
※高純度の過酸化ベンゾイル(BPO)は、爆発する危険性があるので金属製のさじでの取り扱い(静電気による火花で引火)には注意が必要です。
ただしベピオゲルは、1g中に25mg(2.5%)なので安心してご使用下さい。
エピデュオとは?
患者さんの以前使用されていたエピデュオは、ベピオゲル(過酸化ベンゾイル)とディフェリンゲル(アダパレン)の合剤となっています。
適応症:尋常性ざ瘡(ニキビ)
エピデュオの名称由来
・epidermis(表皮)
DUO
・dual active ingredient(二つの有効成分)
・dual mode of action(二つの作用機序)
先ほどのBPOの作用に加えて、アダパレンのレチノイド様作用(核内レチノイン酸受容体γに結合し、遺伝子転写促進化を誘導する)があります。
レチノイド様作用により、表皮角化細胞の分化が抑制されて炎症性・非炎症性皮疹が減少する。
デュアック配合ゲルとは?
出典:株式会社サンファーマ
デュアック配合ゲルの名称由来
デュアック配合ゲルは、過酸化ベンゾイル(酸化剤)とクリンダマイシン(外用抗菌薬)の二つの作用を併せ持つ合剤です。
- クリンダマイシン…リンコマイシン系抗生物質(タンパク質合成阻害)
- 過酸化ベンゾイル…BPOによる抗菌作用と角層剥離作用
適応症:尋常性ざ瘡(ニキビ)
使用方法:1日1回、医師の指示に従いニキビとその周辺に塗ります。
※人差し指の第一関節の長さが、顔半分に塗布量(約0.3g)
使用上の注意:12週間で効果が認められない場合には使用中止する。
※炎症性の皮疹が消失した場合は他の維持療法を検討する
尋常性痤瘡治療ガイドライン2017
デュアック配合ゲルの成分含量は、クリンダマイシン(CLDM)として1%と、過酸化ベンゾイル(BPO)3%が含まれています。
ガイドラインでの推奨度はAであり、炎症性皮疹(中等症から重症)に強く推奨されています。
CLDMとBPOの両成分にP. acnesへの抗菌作用があり、臨床での文献においても12週間の投与期間で有効性が報告されています。
ただし長期維持療法においては推奨しない旨の記載があります。
よってデュアック配合ゲルにおいては炎症性皮疹の改善を目的とした場合に使用し、12週間を目安にし炎症性の皮疹が消失した場合は他の維持療法を検討しましょう。
CLDM1%/BPO3% の長期維持療法は,現在のところエビデンスはなく,CLDM 外用の長期連用によってP. acnes が抗菌剤耐性を獲得する可能性があるため,推奨しない.
またガイドラインには内服抗菌薬についての記載もありますが、こちらでも耐性菌の出現を防ぐために3か月までとするとの記載がありました。
多くの RCT で有効性が示され,炎症性皮疹に,内服抗菌薬を強く推奨するが,耐性菌の出現を防ぐため長期間の使用は控えた方がよい.Global Alliance は,内服抗菌薬の投与は 3 カ月までとし,6~8 週目に再評価して継続の可否を判断することを推奨している52).
引用:尋常性痤瘡治療ガイドライン2017
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