HIF-PH阻害薬が処方された時に患者さんから「貧血の薬って聞いてるけど鉄剤の薬かな?」と聞かれた事がありました。
貧血と言えば患者さんは、鉄欠乏性貧血を思い浮かべる方が多いのかもしれません。
鉄欠乏貧血では赤血球に含まれるHb(ヘモグロビン)の鉄が不足しているので、フェロミアなどが処方されます。
今回は2022年5月1日から長期投与可能となった、HIF-PH阻害薬のマスーレッド錠(モリデュスタット)について調べてみました。
HIF-PH阻害薬とは?
腎性貧血の患者さんは、腎臓の働きが低下してEPO(エリスロポエチン)が減ってしまい赤血球が正常に産生されなくなっています。
EPOは低酸素誘導因子(HIF)の刺激によって産生されるのですが、通常状態ではHIFはHIFプロリン水酸化酵素(HIF-PH)により分解されてしまいます。
しかし山岳地などの高地(低酸素下)では(HIFα)が安定化され、人体内でEPO遺伝子転写促進⇒赤血球の産生が増加します。
同様にHIF-PH阻害薬を服用すると(HIFα)の分解が抑えられて、高地と同じ状態を体内で作り出すことができます。
【 作 用 機 序 】
(HIF安定)
↓
②HIFがEPO産生を誘導
(EPO遺伝子転写促進)
↓
③EPOが赤血球産生刺激
(腎性貧血の改善)
HIF-PH阻害薬の一覧(2022/05/23)
エベレンゾ錠が初めて出てきたときには、口頭で「ヒフ」と言われて「皮膚?塗り薬の事ですか?」となってましたが、5剤目となると違和感がなくなってきました。
- エベレンゾ(ロキサデュスタット)
- ダーブロック(ダプロデュスタット)
- バフセオ(バダデュスタット)
- エナロイ(エナロデュスタット)
- マスーレッド(モリデュスタット)
マスーレッド錠とは?
洋 名:MUSREDO tablets
一般名:モリデュスタット
適応症:腎性貧血
規 格:5mg、12.5mg、25mg、75mg
ステムが(~デュスタット:-dustat)なので、すぐにHIF-PH阻害薬とわかります。
マスーレッド錠の名称由来
名称由来は絶対に「増す赤血球」から「ますれっど」だと思ったのですが…
または「mass=大量、多量」で「マスレッド」とか。
ます~れっど、違うのかな?
用法用量
基本的には1日1回食後に経口投与します。
保存期慢性腎臓病患者
・赤血球造血刺激因子(ESA製剤)で未治療の場合は1回25mgを開始用量
・ESA製剤から切り替える場合は1回25mgまたは50mgを開始用量
透析患者
・1回75mgを開始用量
※いずれの患者でも適宜増減可、最高用量1回200mgまで
※増量は原則4週間以上の間隔をあける
※休薬した場合1段階低い用量で投与再開
保存期慢性腎臓病(CKD:chronic kidney disease)と、透析患者で開始用量が異なるので初回は注意が必要です。
※透析患者の行う透析治療には、血液透析(HD)と腹膜透析(PD)の2種類があります。一般的には血液透析の患者さんが多いのですが、PDファーストでは腎機能が保持され予後が良好だと言われています。
薬価
慢性腎臓病患者でESA製剤から切り替える場合に1回50mgで開始された場合は、25㎎を2錠で処方される事が想定されますので25㎎錠を購入しておけば開始用量は対応できますね。
・ 5mg錠(44.30円)
・12.5mg錠(93.70円)
・25mg錠(165.10円)
・75mg錠(405.30円)
HIF-PHが出る前には、ESA製剤(EPOと類似構造のペプチド)でエリスロポエチンを補っていましたが、HIF-PH阻害薬が出てからは保存期CKD患者さんは注射で通院する必要がなくなります。
注射の痛みからの解放、造血作用や鉄の利用効率の向上、副作用の低減など、保存期CKD患者や腹膜透析患者さんにメリットが大きい薬剤だと考えられます。
参考:バイエル製薬株式会社:マスーレッド錠インタビューフォーム、HIF-PH 阻害薬適正使用に関する recommendation
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