ここのところサムスカ錠(トルバプタン)を扱う機会が多くなってきたので、処方監査や投薬時に気を付けておきたい事をまとめてみました。
添付文書には警告や禁忌の項目がびっしりと記載されているのと、過去に使用上の注意の改訂があったり、高齢患者の家族さんから「自宅でふらついて転倒しそうになった」といった話からも十分に気を付けておきたい薬です。
警告に記載があるように「入院下で投与を開始又は再開すること」とあるので、服薬指導時には初回でない事の確認として初めて服用する薬ではない事を聞き取り確認しましょう。
サムスカ錠について
サムスカ錠は利尿薬の中でもバソプレシン受容体拮抗薬と呼ばれ、腎臓の集合管にあるバソプレシンV2受容体に拮抗する事で、水の再吸収を抑制して水分の排泄を促進します。
バソプレシン(ADH:Antidiuretic hormone)は腎臓で水の再吸収を促す抗利尿ホルモンで、血症量を増やし血圧を上げる事から血圧上昇ホルモンとも呼ばれています。
サムスカ錠は電解質に影響を与えることなく「水分だけを排出する利尿剤が欲しい」という医療現場の声から生まれた薬だそうです。
サムスカ錠7.5mgの規格には、効能効果として以下の4種類の病態全てに対して適応がありますが、15mg と 30mgは規格により適応が異なります。
- ループ利尿薬等の他の利尿薬で効果不十分な心不全における体液貯留
- ループ利尿薬等の他の利尿薬で効果不十分な肝硬変における体液貯留
- SIADHにおける低Na血症の改善
- 腎容積が既に増大し、かつ腎容積の増大速度が速いADPKDの進行抑制
※ SIADH(抗利尿ホルモン不適合分泌症候群)
※ ADPKD(常染色体優性多発性嚢胞腎)
抗利尿ホルモン不適合分泌症候群(SIADH)
抗利尿ホルモン不適合分泌症候群は「SIADH」と記載されていることが多く、正確な読み方はわかりませんが動画でネイティブの方が「エスアイエーディーエイチ」と普通に発音していたので、どうやら私が勝手に呼んでいた「シアド」ではない様です。
SIADHでは低ナトリウム血症(135mEq/L未満)にもかかわらず、抗利尿ホルモンであるバソプレシンが過剰に分泌されることで低浸透圧血症の状態が持続し、倦怠感や食欲低下、意識障害といった低ナトリウム血症の症状を呈する事があります。
常染色体優性多発性嚢胞腎(ADPKD)
「ADPKD:Autosomal Dominant Polycystic Kidney Disease」は腎臓に嚢胞ができて年齢とともに大きくなり、腎臓の機能が段々と低下していく遺伝性の疾患です。大塚製薬様のサイトにて詳しく記載がありますのでこちらでは割愛させていただきます。
大塚製薬:ADPKDってどんな病気?
用法用量に関する注意点
心不全、肝硬変、SIADH、ADPKDの4種類の適応症により注意点が異なりますが、サムスカの処方箋を受け付けた場合に注意するべき事柄を箇条書きにしてみました。
特に減量や半量での処方が望ましい場合には、しっかりと聞き取り確認をしましょう。
〈心不全及び肝硬変における体液貯留、SIADHにおける低ナトリウム血症〉
- CYP3A4阻害剤と併用する場合は、減量や低用量からの開始を考慮する
- 夜間排尿を避けるため、午前中投与が望ましい
〈心不全及び肝硬変における体液貯留〉
- 他の利尿薬と併用して使用すること
- 体液貯留所見が消失した際には投与を中止する
〈心不全における体液貯留〉
- 血清ナトリウム濃度が125mEq/L未満の患者
- 急激な循環血漿量の減少が好ましくないと判断される患者
- 高齢者
- 血清ナトリウム濃度が正常域内で高値の患者
上記患者に投与する場合は、半量(7.5mg)から開始することが望ましい
〈肝硬変における体液貯留〉
- 血清ナトリウム濃度が125mEq/L未満の患者
- 急激な循環血漿量の減少が好ましくないと判断される患者
上記患者に投与する場合は、半量(3.75mg)から開始することが望ましい
〈SIADHにおける低ナトリウム血症〉
- 血清ナトリウム濃度が125mEq/L未満の患者
- より緩やかに血清ナトリウム濃度を補正する必要のある患者
- 急激な循環血漿量の減少が好ましくないと判断される患者
上記患者に投与する場合は、半量(3.75mg)から開始することが望ましい
〈常染色体優性多発性のう胞腎〉
- 夜間頻尿を避けるため、夕方の投与は就寝前4時間以上空けることが望ましい
- CYP3A4阻害剤と併用する場合は用量調節を行う
血症ナトリウム濃度に注意
電解質に影響を与えることなく水分を排泄するサムスカ錠ですが、過剰に利尿が起こると脱水症状や高ナトリウム血症等の副作用の恐れがある為、血清ナトリウム濃度には注意をする必要があります。
用法用量での注意点にもあったように、血清ナトリウム濃度は125mEq/L未満の患者や、正常域内で高値140mEq/L以上の患者で用量の調節が必要な場合があるので、低くても高くても確認が必要です。
また低ナトリウム血症の状態から急激にナトリウム濃度が上昇する事で、浸透圧性脱髄症候群(損傷により運動神経の麻痺や構音障害、嚥下障害等)が起こる可能性等もがあります。
ナトリウムについて
血清ナトリウムの検査値:基準範囲 138~145mEq/L
高ナトリウム血症は、水の摂取不足や過剰な水分喪失、塩分の過剰摂取が原因となり、血症浸透圧が高くなることから口渇や神経症状の可能性が考えられる。
低ナトリウム血症は溶質に対して水分が過剰な状態で、利尿薬の過剰投与、下痢や嘔吐、アジソン病、心不全、肝疾患、ナトリウム喪失性腎疾患、抗利尿ホルモン不適合分泌症候群(SIADH)を引き起こす薬剤の投与など様々な原因ががある。
血清ナトリウム濃度は、血清中ナトリウム量と水分量の比率を示すものなので、低Na血症だからといって即座に体内中のナトリウムの絶対量が減少しているわけではない。
参考:サムスカ錠添付文書、検査値×処方箋の読み方(じほう社)
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