転職活動を考えた場合に、どんな薬局や病院で働くかを考える事はあっても、雇用形態については誰しも組織に所属する事を前提としているかと思います。
実際に調剤薬局で勤務する薬剤師の多くは、正社員やパートタイムによる勤務体系で就労する事がほとんどです。
よって「業務委託」という言葉自体に、馴染みがあまりない方も多いかと思います。
そこで薬剤師が業務委託で働く場合の注意点(業務委託契約書の要点)について調べてみたいと思います。
業務委託とは?
様々な業種において会社(委託者)が、業務の効率化を図ったり経費を抑えることを目的として、業務の一部を外部(受託者)に委託する場合があります。
この場合に、他社(個人事業主含む)へ業務を委託する事を「業務委託契約」と言います。
業務委託はアウトソーシングと同義として使用される場合もあります。
「業務委託で勤務する薬剤師なんているのかな?」
と思われるかも知れませんが、人材紹介会社のマイナビ薬剤師さんの求人検索には雇用形態に「業務委託その他」のチェック欄が存在します。
業務委託のメリットとデメリット
薬剤師(受託者)にとってのメリットとして、会社による保険料(雇用保険・社会保険等)の天引きがされずそのまま全額を受け取る事ができます。
さらに様々な控除により節税を行う事で金銭的なメリットが享受できます。
デメリットとしては、労災や有給休暇がなく、調剤過誤などの業務上のトラブル(薬剤師賠償保険への加入)や、様々なリスク(所得保障保険・就業不能保険への加入)に自分自身で対処する必要があります。
業務委託契約でみられる高い報酬に目が奪われてしまい、リスクを考えず安易に不利益な契約を結ぶことがないように注意が必要です。
業務委託契約の性質
業務委託契約の性質により、大きく分けて以下の2つの種類が存在します。
- 委任契約:法律行為、その他の事務処理(準委任)を目的とした性質をもつ
- 請負契約:仕事の完成を目的とした性質をもつ(建築物の完成など)
委任契約は仕事の完成を契約の目的としていないのに対し、請負契約は完成を目的としているため、委任契約よりも責任が重いと考えられています。
薬剤師が締結する業務委託契約は、薬局業務の運営を目的とした「委任契約」である場合が多いと考えられます。
業務委託契約締結時の注意点
通常、薬剤師が業務委託契約により受託者となって働く場合、委託者である薬局側が作成した契約書により業務委託契約を結ぶことになるかと思われます。
よって雛形の契約書から、業務委託契約を締結する場合の注意点について考えてみたいと思います。
業務委託契約
委託者:(以下「甲」という)と 受託者:(以下「乙」という)は、以下のとおり業務委託契約(以下「本契約」という)を締結する。
第1条(目的)
甲は、乙に対し、甲が行う業務のうち、次に揚げる業務を委託し(以下「本件業務」という)、乙は、これを受託する。
(1)調剤業務、監査、服薬指導、その他調剤薬局での一連の業務
(2)新人の教育研修・OTC医薬品の販売促進活動
(3)その他、甲乙両者協議の上で決定された業務
甲および乙は、必要がある場合は、委託業務の内容、実施方法等の変更および追加等を、甲乙協議の上で決定し、改定することができるものとする。
第2条(契約期間)
1 本契約の有効期間は、令和01年07月01日から1年間とする。
2 契約期間満了の日の3か月前までに、甲乙いずれから何ら申し出のないときは、本契約と同一の条件でさらに1年延長されるものとし、以後同様とする。
第3条(業務の遂行)
乙は、甲に適用される法令、通達および指針等を遵守し、善良なる管理者の注意をもって委託業務を遂行するものとする。
第4条 (業務委託料および支払方法)
1 甲は、乙に対し、本件業務の対価として、月額金○○○円(消費税別)を乙に支払う。
2 甲は、乙に対し、前項に定める委託料を、毎月末日までに、その翌月分を乙の指定する銀行口座に振込んで支払う。なお、その際の振込手数料は、甲の負担とする。
第5条 (再委託)
乙は、本件業務を第三者(以下「再委託先」という)に委託する場合には、自己の責任において、委託業務の全部または一部について再委託することができる。
第6条 (秘密保持)
甲および乙は、本件業務を遂行するに際し相手方から開示を受けた情報、または本契約に基づく委託業務遂行上知り得た双方の技術上、営業上、および個人情報その他の秘密情報について、秘密を保持し、これを本契約の履行以外の目的に使用してはならず、また本契約有効期間中のみならず、本契約終了後も相手方の事前の承諾を得ることなく、第三者に開示・漏洩しないものとする。
第7条 (個人情報)
甲および乙は、本件業務の遂行過程において個人情報を取り扱う場合には、個人情報保護法、本契約および本件業務分野においてガイドライン等が定められている場合には当該ガイドライン等の定めを遵守し、本件業務の目的の範囲内において個人情報を取り扱うこととし、それ以外に取り扱ってはならない。
第8条 (事故処理)
本契約に基づく委託業務の遂行に支障をきたすおそれのある事態が生じた場合は、速やかに相手方連絡するとともに、甲乙協力してその解決処理にあたるものとする。
第9条 (解除)
甲および乙は本契約期間中であっても、3か月前の予告期間をもって本契約を解除することができるものとする。
第10条(反社会的勢力の排除)
1 甲及び乙は、それぞれ相手方に対し、次の各号の事項を確約する。
- 自らが、暴力団、暴力団関係企業、総会屋若しくはこれらに準ずる者又はその構成員(以下総称して「反社会的勢力」という)ではないこと。
- 自らの役員(業務を執行する社員、取締役、執行役又はこれらに準ずる者をいう)が反社会的勢力ではないこと。
- 反社会的勢力に自己の名義を利用させ、この媒介契約を締結するものでないこと。
- この媒介契約の有効期間内に、自ら又は第三者を利用して、次の行為をしないこと。ア 相手方に対する脅迫的な言動又は暴力を用いる行為
イ 偽計又は威力を用いて相手方の業務を妨害し、又は信用を毀損する行為
2 甲又は乙の一方について、次のいずれかに該当した場合には、その相手方は、何らの催告を要せずして、本契約を解除することができる。
- 前項の確約に反する事実が判明した場合
- 契約締結後に自らまたは役員が反社会勢力に該当した場合
第11条 (損害賠償)
甲または乙は、本契約に違反し相手方に損害を与えた場合には、相手方に対し、その損害を賠償しなければならない。
第12条(協議事項)
本契約に定めのない事項および本契約各条項の解釈に疑義が生じた場合は、甲乙互いに信義・誠実の原則に従い、協議・決定するものとする。
以上、甲乙間に契約が成立したので、本契約書を2通作成し、甲乙各1通を保有するものとする。
令和01年06月01日
甲:委託者 ㊞
乙:受託者 ㊞
業務委託契約書の雛形ですが、契約書の作成者である委託者・受託者の立場によってどちらかが有利になるように作成される可能性があるので十分注意して契約をして下さい。
第1条(目的)では、委託者が受託者に委託する業務内容は、「調剤薬局の運営業務」だけでなく、「調剤業務、監査、服薬指導、その他調剤薬局での一連の業務」等と出来る限り明確にする必要があります。
お互いに業務の範囲において錯誤が生じると、履行されるべき業務を巡りトラブルになる可能性が高くなるからです。
第2条(契約期間)は、第9条(解除)とあわせて理解しておく必要があります。
このままでは、薬剤師側にとっては契約解除の予告を3ヶ月前にされると仕事がなくなってしまいます。次の仕事の事を考えて、余裕を持つのであれば期間の延長などを交渉する必要があります。
(解除)については、「乙が次のいずれかの事由に該当した時は、甲は、催告なしに、直ちに本契約を解除する事ができる。」など受託者としては厳しい内容が記載されている場合もあります。
当事者双方が協議の上、解除事由、違約金の有無等についても明確に記載する事が望ましいとされています。
第4条 (業務委託料および支払方法)業務委託料と別途経費が発生した場合の取り扱いや、負担割合などの記載についても明確にする場合があります。
第5条 (再委託)では、受託者の想像よりも受託業務の仕事量が多かった場合に、委託者の承諾なしに第三者に業務を再委託する事が可能となっています。
第7条 (個人情報)は、調剤薬局の運営と言う業務上、患者さんの連絡先や病歴など個人情報を必ず扱う事になります。
よって受託者は個人情報保護法、各分野のガイドラインを遵守する必要があります、しかしながら個人情報を第三者へ提供する事が許される場合もあり、その場合の内容を明記する事が望ましいでしょう。
※契約を締結するまでに話し合う必要のある事項や、新たに定めるべき事項が必要となった場合は「覚書」を締結して詳細を定める場合もあります。
「覚書」は、既にある契約書の変更や補足をしたり、契約書作成前の合意事項を文書としたものを言います。ただし内容が契約の基本事項を定めていれば契約書とみなされます。
業務委託契約の内容は、業種や仕事内容により大きく異なります。よって雛形での契約はトラブルの原因となりえるため、契約書においては必ずリーガルチェックを受けてからご使用いただくようお願い致します。
※この業務委託契約書の雛形を利用した結果、発生した全ての損害について、当サイトではいかなる保証も行わず、一切の責任を負いません。
参考図書:有利な契約利用規約を結ぶためのビジネス契約書つくり方とチェックポイント・契約書のツボとコツがゼッタイにわかる本・契約業務の実用知識
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