エストラーナテープを胸部や背中に貼ってはいけない理由は?

薬の勉強
スポンサーリンク

患者さんに「エストラーナテープは、胸部や背中に貼ってはいけないのですか?」と問い合わせがありました。

たしかに指導箋には胸部や背部には貼らないでくださいと書いてあります。

よって、今回はエストラーナテープについて調べてみたいと思います。

スポンサーリンク

エストラーナテープとは?

エストラーナテープとは、女性ホルモン(エストロゲン)を皮膚から吸収させる事で、低下した女性ホルモンを補う薬です。

名称の由来は、Estra(エストラジオール)+rana(女性らしい響きの語尾、造語)です。

適応症としては以下になります。

  • 更年期障害、卵巣欠落症状に伴う血管運動神経症状(ホットフラッシュ・発汗)、泌尿生殖器の萎縮症状
  • 閉経後骨粗鬆症
  • 性腺機能低下症、性腺摘出又は原発性卵巣不全による低エストロゲン症

基本的に成人では通常、エストラジオール0.72mgを下腹部、臀部のいずれかに貼付し、2日毎に貼り替えます。

出典:久光製薬株式会社

添付文書にも下腹部か臀部に貼るように指示があります、そしてその理由も添付文書に書いてありました。

添付文書の記載内容には?

適用上の注意を見てみましょう。

薬剤交付時の注意、貼付部位(1)と(2)の記載内容にありました。

(1)本剤を背部に貼付した場合、下腹部に比べてエストラジオールの血中濃度が高くなることがある。

(2)衣服との摩擦ではがれるおそれがあるため、ベルトラインを避けること。また、胸部に貼付しないこと。

背部の場合、血中濃度が高くなるのでダメなようです、胸部の理由は書いてありません。

ホルモン補充療法(HRT)により、女性ホルモンの血中濃度が必要以上に高くなると、どんな危険性が増えるのでしょうか?

その他の注意を見てみます。

ホルモン補充療法(HRT)と様々な疾患は、使用期間や黄体ホルモンとの併用により危険性の度合いが変わってくる事が疫学調査によって報告されています。

添付文書より一部抜粋

ホルモン補充療法(HRT)と子宮内膜癌の危険性
使用期間に相関して上昇し(1~5年間で2.8倍、10年以上で9.5倍)、黄体ホルモン剤の併用により抑えられる(対照群の女性と比較して0.8倍)

ホルモン補充療法(HRT)と乳癌の危険性
結合型エストロゲン・黄体ホルモン配合剤投与群では、乳癌になる危険性がプラセボ投与群と比較して有意に高くなる(ハザード比:1.24)子宮摘出者に対する試験の結果、結合型エストロゲン単独投与群では、乳癌になる危険性がプラセボ投与群と比較して有意差はない(ハザード比:0.80)卵胞ホルモン剤と黄体ホルモン剤を併用している女性では、乳癌になる危険性が対照群と比較して有意に高くなり(2.00倍)、この危険性は、併用期間が長期になるに従って高くなる(1年未満:1.45倍、1~4年:1.74倍、5~9年:2.17倍、10年以上:2.31倍)

ホルモン補充療法(HRT)と冠動脈性心疾患の危険性
結合型エストロゲン・黄体ホルモン配合剤投与群では、冠動脈性心疾患の危険性がプラセボ投与群と比較して高い傾向にあり、特に服用開始1年後では有意に高くなる(ハザード比:1.81)子宮摘出者に対する試験の結果、結合型エストロゲン単独投与群では、冠動脈性心疾患の危険性がプラセボ投与群と比較して有意差はない(ハザード比:0.91)

ホルモン補充療法(HRT)と脳卒中の危険性
結合型エストロゲン・黄体ホルモン配合剤投与群では、脳卒中(主として脳梗塞)の危険性がプラセボ投与群と比較して有意に高くなる(ハザード比:1.31)子宮摘出者に対する試験の結果、結合型エストロゲン単独投与群では、脳卒中(主として脳梗塞)の危険性がプラセボ投与群と比較して有意に高くなる(ハザード比:1.37)

ホルモン補充療法(HRT)と認知症の危険性
結合型エストロゲン・黄体ホルモン配合剤投与群では、アルツハイマーを含む認知症の危険性がプラセボ投与群と比較して有意に高くなる(ハザード比:2.05)

子宮摘出者に対する試験の結果、結合型エストロゲン単独投与群では、アルツハイマーを含む認知症の危険性がプラセボ投与群と比較して有意ではないが、高い傾向がみられた(ハザード比:1.49)

ホルモン補充療法(HRT)と卵巣癌の危険性
卵胞ホルモン剤を長期間使用した閉経期以降の女性では、卵巣癌になる危険性が対照群の女性に比較して高くなるとの疫学調査の結果が報告されている。

結合型エストロゲン・黄体ホルモン配合剤投与群において、卵巣癌になる危険性がプラセボ投与群と比較して有意ではないが、高い傾向がみられた(ハザード比:1.58)

ホルモン補充療法(HRT)と胆嚢疾患の危険性
結合型エストロゲン・黄体ホルモン配合剤投与群において、胆嚢疾患になる危険性がプラセボ投与群と比較して有意に高くなる(ハザード比:1.59)

子宮摘出者に対する試験の結果、結合型エストロゲン単独投与群では、胆嚢疾患になる危険性がプラセボ投与群と比較して有意に高くなる(ハザード比:1.67)

卵胞ホルモン剤投与と乳癌発生との因果関係
未だ明らかではないが、使用期間と相関性があることを示唆する疫学調査の結果が報告されている。

卵胞ホルモン剤の長期投与により、ヒトで肝腫瘍が発生したとの報告がある。

添付文書には、HRTと様々な疾患との相関性について記載がありました。

次にインタビューフォームを調べてみました。

インタビューフォームの記載内容には?

薬剤交付時の注意、貼付部位(1)と(2)の記載内容の(解説)がありました。

(1)貼付部位の検討においては、背部、下腹部、臀部に48時間貼付してエストラジオール濃度を比較していました。

すると薬物動態学的パラメータが、背部に貼付した場合は下腹部より有意に高く、下腹部と臀部では有意差が認められませんでした

皮膚刺激性については下腹部、背部及び臀部で有意差が認められませんでしたが、貼りやすさという観点から下腹部、臀部が適当と判断されました。

(2) 米国のエストラジオール貼付剤の添付文書にも胸部への貼付を避ける旨の記載があるそうです。

理由としてはエストラジオールが乳房局所の細胞に高濃度で到達した場合、細胞増殖を刺激するおそれがあるとの事でした。

つまり貼付部位により必要以上に血中濃度が高くなると、細胞増殖が刺激され様々な疾患の危険性が高くなる可能性が否定できないようです。

よって皆さんの想定通りの答えとなりましたが、エストラーナテープの服薬指導時には「テープは必ず下腹部か臀部に張り付けてください」と忘れずにお伝えください。

ホクナリンテープのように、胸部・背部・上腕と理解している患者さんがいないとも言えませんので、皆様どうぞ宜しくお願いいたします。

医療情報を検索するときのテクニックを読みやすくまとめた書籍「医療情報検索テクニック」(著:児島 悠史)はこちら。

コメント

error: Content is protected !!