ノックビン(ジスルフィラム)
ノックビン(ジスルフィラム)の歴史
ノックビン原末の成分であるジスルフィラムは、当初タイヤ工場等でゴムの硫化促進剤として使用されていました。
その工場で働く一部の従業員がアルコールを飲むと、急性症状(顔面潮紅、熱感、頭痛、悪心、嘔吐)を起こす事がわかりました。
そしてジスルフィラムがアルコールの分解反応を抑制する働きが発見された事で、アルコール依存症患者の治療薬として使用されるようになりました。
ジスルフィラム様作用
ジスルフィラムを服用した時に起こる急性症状に似た状態を作り出す医薬品の副作用で、ジスルフィラム様作用と呼ばれるものがあります。
■セフェム系抗生物質(NMTT:N-メチルチオテトラゾール基を有する)
- セフォペラジン(セフォペラゾン)
- セフメタゾン(セフメタゾール)
- ベストコール(セフメノキシム)
- メイセリン(セフミノクス)
- シオマリン(ラタモキセフ)
■抗原虫薬(トリコモナス症、ピロリ菌感染症等)
- フラジール(メトロニダゾール)
これ以外にもアルコールの併用に注意する薬剤は数多く存在します。
服薬指導時に「お酒飲んでもいいですか?仕事柄避けられないんですよ…」と言われる方がよくいらっしゃいますが、薬を服用時のアルコールは控えるようにしましょう。
立場上「飲んでいいですよ」とは言えないので、飲まれる場合は全て自己責任となります。
作用部位と作用機序
アルコールの分解反応を抑制してアセトアルデヒド濃度を上昇させる事で、強制的に二日酔いの状態を作り出しそれに対する拒絶反応を期待して服用する薬です。
作用機序:ALDH(アルデヒド脱水素酵素)阻害
アセトアルデヒドは二日酔いの原因物質であり、ヒトに対して発がん性が認められています。
通常は、ALDHにより酢酸(CH₃COOH)→水(H₂O)と二酸化炭素(CO₂)にまで分解して無毒化されます。
そう考えると怖い薬ですね…。
アルコールの手指消毒にも注意が必要
添付文書の禁忌には以下の5つがあります。
- 重篤な心障害のある患者
- 重篤な肝・腎障害のある患者
- 重篤な呼吸器疾患のある患者
- アルコールを含む医薬品・食品・化粧品
- 妊婦又は妊娠している可能性のある婦人
4つ目のアルコールを含む医薬品として(エリキシル剤、薬用酒等)、食品(奈良漬等)、化
粧品(アフターシェーブローション等)の記載があります。
これ以外にもウイスキーボンボンやゼリー、栄養ドリンク、マウスウォッシュなど様々なものにアルコールが含まれています。
中でもコロナ禍になって、当たり前のようになった手指消毒には特に注意が必要です。
2020年7月に医学誌のAlcohol and Alcoholismに掲載された報告によると、インドに住む43歳の男性が銀行を訪れて備え付けの手指消毒剤を使用したところ、顔が赤くなったり吐き気や不快感を覚えたりするといった二日酔いのような症状に襲われたとのこと。
緊急治療室に運ばれた男性には、頻脈や顔・胸部の赤みといった症状も確認されたそうです。
実はこの男性は3年前からアルコール依存症の治療を受けており、治療の一環としてジスルフィラム(アンタビュース)というアルコール依存症の治療薬を服用していました。
ジスルフィラムは50年以上前からアルコール依存症の治療に使われており、アメリカ国内だけでも20万人以上が定期的に服用するメジャーな薬です。
引用:Gigazine
※アンタビュースは、ジスルフィラムの海外での販売名。
手指消毒に使われているアルコール濃度は、主に70%~95%のエタノールであることから急性症状が起きる可能性は十分あります。
初回の服薬指導時には絶対に忘れないように患者さんにお伝えしましょう。
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