シクレスト(アセナピン)はMARTAだが糖尿病禁忌でない理由

薬の勉強

今月から来ている実務実習の学生さんが優秀な方で、聞いてくることが私には難しくて即答できずに困っています。学生さんはもっと困っているかと思いますが…。

特に薬物動態などは忘れていることも多く、その都度調べたりしながら一緒に考えてもらうというスタイルなので現場にも大変ご迷惑をかけています、この場を借りてお詫び申し上げます。(ちなみに私はこの学生さんの指導薬剤師ではありません)

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ジプレキサが糖尿病に禁忌の理由

精神科門前の店舗勤務で「ジプレキサは糖尿病に禁忌だから気をつけて下さいね」と伝えたところ、学生さんは添付文書をを見て「同じMARTAでセロクエルは禁忌ですが、シクレスト(アセナピン)はなぜ禁忌でないのでしょうか?」と聞かれました。

これに関して調べたことがなかったので一緒に調べてみる事にしました。

まず非定型抗精神病薬では糖尿病患者の血糖値に気をつける必要がある薬剤が多く存在します。中でも禁忌薬ジプレキサ(オランザピン)セロクエル(クエチアピン)になります。

※適応症(双極性障害のうつ症状治療薬)が異なるビプレッソ(クエチアピン)も糖尿病に禁忌

現時点でジプレキサ治療中の、高血糖発現機序は明確ではありません。しかし、非臨床及び臨床では、いくつかの仮説が示されています。

インスリン抵抗性が出現する理由としては、オランザピンそのものによりインスリン抵抗性を生じる可能性、あるいはオランザピン治療下のプロラクチン値の上昇がインスリン抵抗性をもたらす可能性や、セロトニン受容体拮抗作用により膵臓細胞からのインスリン分泌が減少する可能性のほか、試験の知見から、オランザピンが膵臓細胞のアポトーシスを引き起こす可能性や、糖輸送担体に直接的に作用して糖輸送を障害する可能性などが想定されています。

なお、健常人を対象としたいくつかの試験においてインスリン抵抗性の発現が報告されていますが、一方で、インスリン反応やインスリン感受性に有意な変化は報告されなかったというイーライリリーが実施した前向き試験もあり、結果は一貫しておりません。

また、ジプレキサを含むいくつかの非定型抗精神病薬服用者では、インスリン抵抗性の指標である値が定型抗精神病薬服用者よりも高いことなどから、インスリン抵抗性が耐糖能障害を引き起こす可能性があると考えられています。試験や動物実験の結果の解釈には限界があります。また、臨床試験結果に一貫性が見られないことから、ジプレキサ治療中の高血糖の発現機序を明確に説明することは困難と思われます。

日本イーライリリー株式会社より引用

発生機序は明確ではないとの事でしたが、ジプレキサ(オランザピン)が禁忌の理由が以下の5つの可能性であるとの事でした。

  • オランザピンそのものによりインスリン抵抗性を生じる可能性
  • オランザピン治療下のプロラクチン値の上昇がインスリン抵抗性をもたらす可能性
  • セロトニン受容体拮抗作用により膵臓細胞からのインスリン分泌が減少する可能性
  • オランザピンが膵臓細胞のアポトーシスを引き起こす可能性
  • 糖輸送担体に直接的に作用して糖輸送を障害する可能性

インスリン抵抗性が生じたり、インスリンの分泌が減少したりする事で血糖値が上昇すると考えられていますが、その理由としてセロトニン受容体拮抗作用やムスカリンM3受容体が関係しているようです。

実際、糖尿病の副作用の臨床的発生率が最も高いSGAであるオランザピンとクロザピンは強力なM3R拮抗薬です。膵臓のM3Rは、インスリン分泌のグルコース刺激コリン作動性経路を調節します。β細胞でのそれらの活性化はインスリン分泌を刺激し、M3R遮断はインスリン分泌を減少させます。

CNS drugs. 2013 Dec;27(12);1069-80. doi: 10.1007/s40263-013-0115-5.

多元受容体標的化抗精神病薬(multi-acting-receptor-targeted-antipsychotics: MARTA)であるジプレキサには、ドパミン受容体やセロトニン受容体に対する作用だけでなく、ムスカリンM3受容体拮抗作用があります。

そして非定型型抗精神病薬による血糖値の変化には、少なからずムスカリンM3受容体が関係していると言われています。

シクレストが糖尿病に禁忌でない理由

同じくMARTAであるシクレスト錠(アセナピン)のムスカリンM3受容体に対する親和性は、ジプレキサと比べると低いと考えられています。

アセナピンは、in vitro受容体結合試験においてセロトニン受容体の幅広いサブタイプ(5-HT1A、5-HT1B、5-HT2A、5-HT2B、5-HT2C、5-HT6、5-HT7)に加え、ドパミン受容体(D1、D2、D3)、アドレナリン受容体(α1A、α2A、α2B、α2C)及びヒスタミン受容体(H1、H2)に対して高い親和性を示す。一方で、ムスカリン受容体及びβ受容体への親和性は低い

シクレスト錠インタビューフォームより引用

そしてシクレスト錠は舌下錠である事から、胃でのセロトニン5-HT受容体への影響(食欲への影響)が少ないことも指摘されています。

また「統合失調症または統合失調感情障害の患者におけるシクレスト(アセナピン)とジプレキサ(オランザピン)の長期評価(二重盲検1年間試験)」によると、平均体重増加はアセナピンで+0.9 kg、オランザピンで+4.2kgとの事でした。

シクレスト錠は1年間の治療で忍容性が高く、オランザピンよりも体重増加が少なかったとの結果からも血糖値への影響も少なく糖尿病の患者に対しても禁忌でないと考えられます。

参考文献:Pharmacopsychiatry 2011; 44(07): 343-343 DOI: 10.1055/s-0031-1295450

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