受診時に処方された「ヤーズフレックス錠」は、次回の月経時より服用開始になりました。
ヤーズフレックス錠は、妊娠している患者には禁忌です。
妊娠のリスクを確実に除外するためにも、月経開始を確認後の第1日目から服用開始してください。
WHOによると、女性ホルモン製剤(類薬:経口避妊剤)を服用中の静脈血栓症(VTE)のリスクは、服用女性は服用していない女性に比べて3.25~4.0倍高くなるという報告があります。
ヤーズは過去に国内で、20歳代の女性が投与量7錠で、頭蓋内静脈洞血栓症で死亡したニュースが有名だったので、静脈血栓症(VTE)が心配になり詳しく調べてみました。
※月経困難症治療剤「ヤーズ配合錠」による血栓症についての安全性情報はこちらから。
ちなみに服薬指導時には、開始時だけでなく継続中は血栓症のリスクを毎回説明する必要があります。
本剤服用患者には,投与開始時だけでなく継続時にも,血栓症について説明すること.
また,血栓症を疑い他の診療科,病医院を受診する際には,本剤の使用を医師に告知(患者携帯カードの呈示等)するよう指導すること.
受診時ごとの問診(服薬状況,効果,副作用発現のチェック),血圧測定,少なくとも 1 年ごとの体重測定は必須である.
VTE 発症が服用開始から 3 ヵ月以内に高いことから,この時期は特に頻回に VTE 所見に対する慎重な問診や診察を行い,疑われる症状が認められた場合,適切な検査を行い,必要なら服薬の中止を検討する.
さらにリスクを高める状況(脱水,不動,肥満,喫煙など)を排除できるように生活指導することも必要である.
ヤーズフレックス錠インタビューフォームより引用
ヤーズとヤーズフレックスの違いは?
有効成分の違い
「黄体ホルモン・合成エストロゲン配合剤」
一般名:ドロスピレノン・エチニルエストラジオール ベータデクス
ヤーズとヤーズフレックスの有効成分は、どちらも同じものです。
それぞれのホルモンの特徴を見てみたいと思います。
■ドロスピレノン(DRSP)の特徴
黄体ホルモン製剤のドロスピレノン(DRSP)は、スピロノラクトン誘導体(-renone)であり、アルドステロン拮抗薬であります。
アルドステロンは副腎皮質から分泌されるホルモンで、腎臓からナトリウムの排泄を抑制します。
そしてドロスピレノンは、抗ミネラルコルチコイド作用を有し、スピロノラクトンの誘導体である事からも構造がとても似ています。
スピロノラクトン(左)・ドロスピレノン(右)
スピロノラクトン(左)は、「スピロ環構造・ラクトン環構造」をもっている、K+保持性利尿薬(抗アルドステロン薬)のひとつです。
利尿作用があるので浮腫を軽減させる一方で、血栓が出来やすい原因にもなります。
スピロノラクトンの添付文書にも、使用上の注意として記載があります。
【使用上の注意】
1.慎重投与(次の患者には慎重に投与すること)
⑴心疾患のある高齢者、重篤な冠硬化症又は脳動脈硬化症のある患者[急激な利尿があらわれた場合、急速な血漿量減少、血液濃縮を来し、血栓塞栓症を誘発するおそれがある。]アルダクトンA錠添付文書より引用
次は卵胞ホルモンのエチニルエストラジオールの特徴です。
■エチニルエストラジオール(EE)の特徴
卵胞ホルモン(エストロゲン)製剤と呼ばれる、女性ホルモン製剤の一種になります。
エチニルエストラジオール(以下EE)自体は、あすか製薬から「商品名:プロセキソール」で発売され、適応症は、前立腺癌、閉経後の末期乳癌(男性ホルモン療法に抵抗を示す場合)です。
EEは他にも、ヤーズ、ルナベルの様な配合剤、低用量OC(oral contraceptives)にも含まれています。
ちなみにEEの配合量が、1日0.02mg以下を超低用量ピルと呼びます。
有効成分の含有量の違い
ヤーズとヤーズフレックスは、同じ含有量の記載がありました。
■ヤーズ:1錠中
- ドロスピレノン3mg
- エチニルエストラジオール0.020mg
■ヤーズフレックス:1 錠中
- ドロスピレノン(DRSP)3mg
- エチニルエストラジオール(EE)0.020mg
ただしヤーズには、淡赤色錠(24錠)と白色錠(4錠)の2種類あり、白色4錠はプラセボ錠なので有効成分は入っていません。
また本邦未承認の製剤Yasmin(ヤスミン)は、同一成分でありながらエチニルエストラジオール(EE)含量が0.030mgと異なった製剤になります。
服用方法の違い
ヤーズは偽薬(プラセボ)が含まれているので休薬期間があります。
それぞれ服用方法は異なりますので注意してください。
■ヤーズ
1日1錠を毎日一定の時刻に28日間連続経口投与(偽薬が休薬期間となる)
※ちなみにヤーズ配合錠は、1シートで28錠(実薬24錠と偽薬4錠)を含みます。保険請求する場合は、実薬だけでなく偽薬を含む28日分を連続服用する形で調剤料を算定してください。
プラセボ錠にまで薬剤料が支払われるのも少し不思議な気もしますが、1シートで薬事承認されているので問題ないとの事です。(保険調剤Q&Aより)
■ヤーズフレックス
1日1錠を経口投与する(最長120日間連続服用可能)
※24日目までは出血の有無にかかわらず連続投与する。
以下のいずれかの場合は、4日間休薬する。
- 25日目以降に3日間連続で出血(点状出血を含む)が認められた場合
- 連続投与が120日に達した場合
休薬後は出血が終わっているか続いているかにかかわらず連続投与を開始する。
以後同様に連続投与と休薬を繰り返します。
適応症の違い
ヤーズフレックスには「子宮内膜症に伴う疼痛改善」の適応があります。
■ヤーズ
月経困難症
■ヤーズフレックス
月経困難症、子宮内膜症に伴う疼痛改善
ヤーズは子宮の収縮運動を抑制して「月経困難症」の疼痛などの症状を緩和します。
ヤーズフレックスは、加えて「子宮内膜症に伴う疼痛改善」の適応があります。
今回はまさに子宮内膜症に伴う疼痛改善目的ですので、ヤーズフレックスが処方されました。
「ヤーズ配合錠」投与患者での血栓症に関する注意喚起
ヤーズの服用により血栓症があらわれ、致死的な経過をたどることがあります。
血栓症が疑われる症状があらわれた場合は、直ちに投与中止、そして適切な処置(救急医療機関を受診)をするようにしましょう。
<血栓症が疑われる症状>
- 下肢の急激な疼痛・浮腫
- 突然の息切れ、胸痛
- 激しい頭痛
- 四肢の脱力・麻痺
- 構語障害
- 急性視力障害等
これを見ると怖くて服用する意欲がなくなってしまいそうです。
しかしながら、段々と酷くなってきた痛みも辛いです。
さらに以下の患者は更に血栓症のリスクが高くなります。
<リスクの高い患者>
- 40歳以上
- 喫煙
- BMI25以上
- 片頭痛の既往歴
通常、女性ホルモン製剤は凝固系を活性化するといわれている事からも、血栓症のリスクが高いといわれています。
女性ホルモン製剤を経口投与すると,消化管から吸収され,門脈を経て肝内に取り込まれる。
肝内エストロゲンは肝組織を刺激して凝固系を活性化するため,静脈血栓塞栓症(VTE)のリスクとなる。
したがって,内服するエストロゲン量が多ければ多いほど肝刺激が強く,VTEリスクは高くなることがわかっており,臨床的には閉経後のホルモン補充療法(HRT)や経口避妊薬(OC)を使用する場合,VTEリスクは大きな有害事象の1つとなる。
日本医事新報社サイトより引用
ヤーズは超低用量(エストロゲンが少ない)なので、低用量ピルよりも動脈血栓のリスクは低いと考えられていました。
しかし血栓症で死亡例が続けて出た為に、必要以上に怖れられてしまったようです。
実際のところはどうなんでしょうか?
インタビューフォームから調べてみました。
ヤーズの外国での大規模市販後調査の2年以上の追跡調査によると、VTEの発現率は1万人当たり7.2件で、静脈血栓症のリスクは類薬と同等であると報告がされています。
一方、Yasmin の外国での疫学調査、後ろ向きコホート研究では、Yasmin使用者の静脈血栓症の発症率は、レボノルゲストレルを含有する経口避妊剤よりも高く、第三世代経口避妊剤よりも低いと報告がされています。
※Yasmin(ヤスミン:本邦未承認)はヤーズと同一成分だが、EEの含量が0.030mgと異なる規格の製剤。
またアメリカでの、ヤーズの添付文書「WARNINGS AND PRECAUTION」には、Yasminの疫学研究 を引用する形で、以下のように記載されています。
「ドロスピレノン配合経口避妊剤のVTEのリスクは、レボノルゲストレルや他のプロゲスチンを配合する経口避妊剤に比べて増加しないという報告から3倍増加するという報告まで様々である」
結局どっちかよくわかりませんね‥
ヤーズの特性として、スピロノラクトン程度の利尿効果があると考えられているため、血液が濃縮しやすくなり血栓リスクが他の低用量ピルより若干高いということが言われています。
よってヤーズによる血栓症リスクを下げるために、注意できる事をまとめてみました。
ヤーズ服用時に注意する事
①脱水で血液が濃くなると血栓を生じやすいため、水分摂取をこまめに。
1日2リットルを目安に水分摂取を心がける。
(水分制限のある方は医師の指示に従う事)
②エコノミークラス症候群と同じ様に、座りっぱなしなど同じ姿勢でいるのは良くないのでこまめに足を動かしたり、動き回ったりする。
弾性ストッキングも良いみたいです。
ヤーズフレックスの服用体験談については次の記事より
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