ドライアイの患者さんから、「ムコスタとジクアス点眼液はどちらもムチンという物質を増やすと聞いたんだけど違いはあるんですか?」との質問がありました。
ムチン(高分子糖蛋白質)とは動物の粘膜細胞から分泌される粘り気のある物質で、目の角膜上皮細胞から分泌され保水性があるので目の乾燥と非常に関係のある物質です。
ムチンには角膜組織の傷を保護したり修復を促進する作用もあります。
涙の成分でもあるムチンには、分泌型ムチンと膜型ムチンが存在します。
油層
まぶたの縁にあるマイボーム腺から分泌される油の層。
外側を覆うことで、涙が蒸発するのを防いでいます。
加齢や炎症のためにマイボーム腺の働きが低下すると、油の分泌が減ったり、成分が変化して油が固くなり、マイボーム腺の開口部が詰まったりします。
すると、涙の安定性が低下してドライアイの原因となります。
このような異常は「マイボーム腺機能不全」と呼ばれ、高齢の患者さんに多くみられます。
液層
涙の大部分(95%)を占める層で、タンパク質など様々な成分を含んでおり、角膜への栄養補給や感染予防、傷の治癒など、涙の重要な働きを担っています。
上まぶたの裏側にある涙腺から分泌されます。
また、目の表面の「ゴブレット細胞」から分泌される粘液のムチン(分泌型ムチン)は、涙が目の表面を均一に分布するのを助けています。
最近の研究で、このムチンが涙の安定性に重要な役割を果たしていることがわかってきました。
大塚製薬サイトより引用
ここででてくるゴブレット細胞は重要なキーワードになります。
杯細胞(さかずきさいぼう:goblet cell)ゴブレット(goblet)とはハリー・ポッターと炎のゴブレットでも有名ですが、足つきの大きな杯のことを指します。
つまり杯の形をした細胞の事です。それではそれぞれの薬剤の特徴から違いを探してみます。
ムコスタ点眼液UD2%
大塚製薬サイトより引用
まず胃薬で有名なムコスタですが、ムコスタUDの名称由来を調べてみました。
Mucosal(粘膜)+stabilizer(安定化)
GastricMucosal(胃粘膜)ProstaglandinInducer(プロスタグランジン誘導物質)
UDはUnit Doseの略
名称の由来には二通りあるみたいですね。
効能効果はドライアイで用法用量として通常、1回1滴、1日4回点眼します。
ムコスタは白濁色で点眼後に一時的に目がかすむことがあるので、機械類の操作や自動車等の運転には注意しましょう。そして患者さんによっては苦味を感じるとの事です。
服薬指導時の注意点としてたくさんあります。
- 薬剤交付時に患者さんに指導する事として、懸濁液のため使用の際に薬剤を分散させるために点眼容器の下部を持ち丸くふくらんだ部分をしっかりはじく。
- 点眼のとき、容器の先端が直接目に触れないように注意する。
- 点眼後、閉瞼して1~5分間涙嚢部を圧迫した後開瞼する。
- 眼周囲等に流出した液は拭きとる。
- 二次汚染防止の保存剤を含有しない1回使い捨ての無菌ディスポーザブルタイプの製剤であるので、使用後の残液は廃棄すること。
- 他の点眼剤と併用する場合には、少なくとも5分間以上の間隔をあけて点眼する。
- 点眼口を下向きにして保管しないこと。
- 有効成分が眼表面、涙道等に凝集することや、ソフトコンタクトレンズに吸着することがあるがあるので、目や鼻の奥に違和感を感じたときは眼科医に相談すること。
薬理作用
作用機序は、角膜上皮細胞のムチン遺伝子発現を亢進し、細胞内及び培養上清中のムチン量を増加。
角膜上皮細胞の増殖を促進し、※結膜ゴブレット細胞数を増加させた。
結膜、角膜のムチン産生促進作用と角結膜上皮障害改善作用
ここで出てきましたムコスタUDは※杯細胞(さかずきさいぼう:goblet cell)を増加させるんですね。
ムコスタ点眼液UDの形が杯(ゴブレット)に似ているから覚えやすいですね!
つぎはジクアスについて調べてみました。
ジクアス点眼液3%
参天製薬サイトより引用
こちらも名称の由来を調べてみました。
ジクアホソルナトリウム(Diquafosol Sodium)+アクアス(Aquas:ラテン語で“水(複数形)”の意味)
化学構造の命名法とラテン語の水から由来しているみたいです。
こちらも効能効果はドライアイで、用法用量は通常、1回1滴、1日6回点眼します。
服薬指導時の注意点としては2点だけでした。
- 薬液汚染防止のため、点眼のとき、容器の先端が直接目に触れないように注意するよう指導する。
- 他の点眼剤と併用する場合には、少なくとも5分間以上の間隔をあけて点眼するよう指導する。
薬効薬理
1.作用機序は結膜上皮と杯細胞膜上のP2Y2受容体に作用⇒細胞内のCa濃度上昇⇒水分とムチンの分泌促進。
2.ムチンを含む涙液分泌促進作用
3.角膜上皮細胞のムチン産生促進作用
4.角膜上皮障害改善
ここでも出てきました杯細胞ですが、ジクアスは杯細胞のP2Y2受容体に作用します。
P2Y2受容体はプリン受容体の一種で通常は、ATP(アデノシン3リン酸)やUTP(ウリジン3リン酸)が作用することによりムチンや涙液の分泌が促進されます。
また角膜上皮障害の改善は、ジクアス点眼液を1日6回で4週間反復点眼することで濃度依存的に改善され、1%以上で最大効果を示したとされることから、点眼の回数を守って根気強く続ける必要があるようです。
ムコスタUDとジクアス点眼液の違いは?
同じムチンを分泌促進する薬として記憶していただけでしたが杯細胞を増加させるか杯細胞の受容体に働くかといった違いがありました。
ムコスタUDは※杯細胞(さかずきさいぼう:goblet cell)を増加
ジクアスは杯細胞のP2Y2受容体に作用
たまに併用して使用する方がいらっしゃるので無意味ではない事が理解できました。
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