先日、在宅施設の看護師さんより「新しく入所した患者さんの目薬が押しても出てこないんだけど、どうしたら良いですか?」との問い合わせがありました。
ジェネリックの点眼薬では、防腐剤が無添加の点眼薬に使用されている容器に特殊なものがあります。
恐らく開栓作業の必要な「PF点眼容器」の話かな?と思いメーカーを確認したところ、緑内障や高眼圧症に使用される「わかもと製薬」のニプラジロール点眼液0.25%でした。
PF点眼容器とは?
PF:Preservative Free(防腐剤無添加)を可能とした点眼容器です。容器には「PFマーク」がついているのですぐにわかるかと思います。
日本点眼薬研究所のPF容器より出典
PF点眼薬とは、0.22μmメンブランフィルターを用いた特殊な容器により外部からの細菌の侵入を防いでいます。
初めて使用する時だけPF点眼薬の開栓操作が必要です。服薬指導時には必ず患者さんか代理の人に説明をしなければ「点眼薬が押しても出てこないです」とクレームに繋がります。
開栓操作はキャップを閉めたまま、キャップを上向きにして両手で持ち、容器中央のマークを両手親指で強く1回押すだけです。すると容器内部のプラグが外れて、点眼が可能な状態になります。
しかし今回の問い合わせのあった「わかもと製薬」のニプラジロール点眼液0.25%は異なる容器のようです。メーカーのサイトを確認すると「NP点眼容器」と記載されています。
NP点眼容器とは?
NP:None-Preservative(防腐剤無添加)を可能とした点眼容器です。容器には「NPマーク」がついているのですぐにわかるかと思います。
わかもと製薬サイトより出典
こちらの容器は、わかもと製薬株式会社とニプロ株式会社が共同開発した、フィルター付き点眼容器になります。
PF点眼容器と異なって開栓操作が不要です。
しかし服薬指導時には「この目薬は、フィルターを装着した特殊な容器なので、普段の目薬と比べるとに少し力が必要になります。最初の1滴が出てくるまでに少し時間がかかります。」と説明をしなければ今回の様なクレームにつながります。
この NP 容器の特徴は、2 種類のフィルター(親水性と疎水性フィルター)を装着することにより、内溶液の無菌性を保ち、特に防腐剤である塩化ベンザルコニウム等の使用を控えることが可能となりました。
ニプロのNP容器より引用
点眼薬に含まれる防腐剤の種類
点眼液に含まれる防腐剤は微生物の発育や二次汚染の影響を低減する為に含まれています。
しかし点眼液に含まれている防腐剤は、角膜上皮障害や過敏症の原因となります。
よって緑内障患者さんで長期間使用する場合や、ドライアイで何度も点眼する場合、角膜や涙液動態への影響を考えると無添加、低濃度が望ましいとされています。
点眼薬で使用されている防腐剤として、主に以下の成分があります。
①ベンザルコニウム塩化物:(陽イオン性界面活性剤で、手指消毒液のウエルパス等にも含まれる成分)
高濃度では角膜の細胞の細胞膜にも作用して角質の蛋白質を変性させ、角膜や結膜の上皮剥離、欠損が起こることが報告されています。コンタクトレンズに吸着されやすいので、角膜上皮障害を防ぐ為にレンズをはずして点眼をする必要があります。
②パラオキシ安息香酸エステル:(パラベンとは、パラオキシ安息香酸エステル類の総称)
医薬品の添加物として使用されるパラオキシ安息香酸エステル類の強さはメチル・エチル・プロピル・ブチルの順に強くなり毒性は小さくなるとされています。
点眼薬には、パラオキシ安息香酸メチルとプロピルがセットで入っている事が多いですが、これはパラベン類等を組み合わせることにより相乗効果や抗菌スペクトルが高まる。
③クロロブタノール:(アルコール類)低温状態で安定、室温で加水分解される
ハロゲン(塩素原子)により脂溶性が高いことからも、細菌の細胞膜を破壊する事で抗菌作用を発揮するとされています。抗菌力はベンザルコニウムよりも弱いが、毒性は低いとされています。
※ホウ酸:防腐剤と言うよりはphの調整に緩衝材として使用されることが多い。
防腐剤は点眼薬の設計時に抗菌力だけでなく、配合変化による沈殿などの影響を考えて選択されている。
塩化ベンザルコニウムの他にパラオキシ安息香酸メチルやパラオキシ安息香酸プロピルなどのパラベン類系の薬剤やクロロブタノールが使われているが,パラベン類系の薬剤やクロロブタノールは塩化ベンザルコニウムに比し,抗菌力が弱い.
したがって,点眼液の設計において塩化ベンザルコニウムを防腐剤として添加し,その結果,沈殿が生じる場合には,パラベン類系の薬剤やクロロブタノールなどの薬剤を用いるのが一般的である.
医療薬学vol29より引用
PF点眼容器、NP点眼容器のジェネリック指定は変更に注意!
PF点眼容器、NP点眼容器のジェネリックメーカーが指定された処方箋を、受け取った場合には注意が必要です。
変更不可のチェックがないからと、安易に他のジェネリックメーカー品に変更する前に、ベンザルコニウム等の防腐剤での角膜上皮障害の有無や、コンタクトレンズを普段使用していないか?等を患者さんに必ず確認するようにしましょう。
角膜上皮障害の既往があり防腐剤フリーを前提として処方箋にジェネリックメーカーの指定がされているかもしれません。
もしかすると処方箋で指定された点眼薬であれば医師からコンタクトをしたまま点眼しても良いとの指導が、病院であらかじめされている可能性も考えられます。
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