イソソルビド(浸透圧利尿作用)と、硝酸イソソルビド(狭心症等)の違いは何でしょうか?
まず構造式を見てみたいと思います。
(左)が浸透圧利尿作用のある「イソバイド」の成分イソソルビドです。
(右)は狭心症等に使用される「ニトロール」や「フランドル」の成分二硝酸イソソルビドです。
※同じく狭心症に使用される「アイトロール」は一硝酸イソソルビド
名前のとおり右の二硝酸イソソルビドには、強酸である硝酸(HNO₃)が2つくっついています。
硝酸が外れて一酸化窒素(NO)になると血管壁などの細胞に作用し、血管を広げる作用があります。
イソソルビドの作用機序と効能効果
イソソルビドの作用部位は細胞外液です、そしてイソソルビド自体は体内でほぼ代謝されないので体の組織中の水分を血管に移動させます。
イソソルビドは腎糸球体でろ過され、糸球体ろ過量(GFR)を増加させます。
尿細管でも再吸収されないので、尿細管腔内の浸透圧が上昇し、水の再吸収は抑制されて、電解質や水の排泄が増加し、組織中の水分量が減少することで、頭蓋内圧や眼圧が低下します。
内耳の血管条、内リンパ嚢、内リンパ管に作用して内リンパ圧を降下させます。
血管条(蝸牛中心階の外側壁の上皮組織)の辺縁細胞内にイソソルビドが移行し、細胞内浸透圧を高める結果、内リンパとの間に浸透圧勾配が生じ内リンパを吸収します。
効能効果
- 脳腫瘍時の脳圧降下
- 頭部外傷に起因する脳圧亢進時の脳圧降下
- 腎・尿管結石時の利尿
- 緑内障の眼圧降下
- メニエール病
硝酸イソソルビドの作用機序と効能効果
硝酸イソソルビドは体内に入った後、一酸化窒素(NO)を生成します。
一酸化窒素(NO)は、心臓の冠動脈を広げて血流量を増やす事で心臓に酸素を供給して、血管の抵抗を減らして心臓の負担を減らします。
これにより狭心症の発作予防や、発作時の治療に使用されます。
作用部位:静脈血管、冠血管及び末梢動脈
作用機序:一酸化窒素(NO)が可溶性グアニル酸シクラーゼを活性化し、サイクリックGMP(cGMP)を上昇させ、血管の弛緩を起こすとされている。
効能効果
- 狭心症
- 心筋梗塞
- その他の虚血性心疾患
一硝酸イソソルビド/二硝酸イソソルビド
ニトロール(硝酸イソソルビド)の添付文書には薬理学的に関連ある化合物として、一硝酸イソソルビド、ニトログリセリン、亜硝酸アミル、ニコランジルが記載されています。
硝酸イソソルビドには、
- 硝酸が1つの一硝酸イソソルビド(アイトロール)
- 硝酸が2つの二硝酸イソソルビド(ニトロール、フランドルテープ等)
が存在します。
名称由来
- アイトロールの名称由来は「特になし」です。洋名:Isosorbide Mononitrateの「I」からアイトロールかと思っていました。
- ニトロールの名称由来は「ニトロはニトログリセリンより取り、語尾をのばして持続性の意味を表わした」です。硝酸が2個だからニトロールかと思っていました。
- フランドルテープの名称由来は「特になし」です。
硝酸が1つの一硝酸イソソルビド(アイトロール)の適応症は狭心症のみです。
アイトロールの添付文書には「アイトロールは狭心症の発作寛解を目的とした治療には不適であり、狭心症の発作寛解を目的とした治療には速効性の硝酸・亜硝酸エステル系薬剤を使用すること」と書かれてあります。
また解説には「血漿中の一硝酸イソソルビド濃度は、服用後徐々に上昇する(最高血漿中濃度到達時間は1.5 ~ 2 時間)ため、現に起こっている発作の寛解を目的に用いるものではない。この目的のためには速やかに効果をあらわすニトログリセリンの舌下投与等を行うべき」とあります。
- 一硝酸イソソルビド:アイトロール錠
- 二硝酸イソソルビド:ニトロール錠、フランドルテープ
- ニトログリセリン:ニトロペン舌下錠・ニトロダームTTS・バソレーター注、テープ・ミオコールスプレー・ミリスロール注・ミリステープ
- ニコランジル:シグマート錠
※上記の硝酸・亜硝酸エステル系薬剤は「ホスホジエステラーゼ5阻害作用」を有する薬剤と禁忌なので十分に注意してください。
PDE5阻害作用を有する薬剤とは?
- シルデナフィルクエン酸塩(ED治療薬:バイアグラ)
- バルデナフィル塩酸塩水和物(ED治療薬:レビトラ)
- タダラフィル(ED治療薬:シアリス)
- リオシグアト(慢性血栓塞栓性肺高血圧症、肺動脈性肺高血圧症治療薬 グアニル酸シクラーゼ刺激作用を有する薬剤:アデムパス)
上記の薬剤を投与中の患者では、併用により降圧作用が増強され、過度に血圧を低下させることがある。
降圧の作用機序は?
硝酸・亜硝酸エステル系薬剤はグアニル酸シクラーゼを活性化し、(cGMP)の産生を促進して細胞内のCa ++濃度を低下させ、血管拡張作用を示す。
一方、シルデナフィルクエン酸塩、バルデナフィル塩酸塩水和物及びタダラフィルは、cGMP を分解するホスホジエステラーゼ5 を阻害することにより、cGMP の分解抑制する。
また、リオシグアトはグアニル酸シクラーゼ刺激作用を有し、cGMP の産生を促進する。
このため、本剤とこれらの薬剤との併用によりcGMP の増大を介する降圧作用が増強され、過度に血圧を低下させるおそれがあり、禁忌である。