以前から読んでみたかった「薬局で使える実践薬学(山本雄一郎著)」をようやく読む機会に恵まれました。
日経ドラッグインフォメーションに連載されている、山本雄一郎氏の「薬局にソクラテスがやってきた」をいつも楽しみに読んでいたので、この本もすぐに購入しようと思っていました。
しかし私にとっては値段も安くはないので少しためらっていました。
主な内容は目次からも察しがつきますが、目次は月毎にさらに細かい内容に分かれています。
<<主な内容>>
4月 睡眠薬の分類と服薬指導のヒント
5月 原則通りにいかない薬物動態学のワナ
6月 “機序不明”の陰にトランスポーターあり
7月 CYPが関与する相互作用を見抜くコツ
8月 腎機能チェックはこれで完璧!
9月 抗不整脈薬の副作用から患者を守れ
10月 DOACの登場がもたらしたインパクト
11月 新旧PPIの比較から見えてくること
12月 NSAIDsの温故知新
1月 ARBの薬理にまつわるエトセトラ
2月 百花繚乱の血糖降下薬を究める
3月 化学構造式だって意味がある
目次を見るだけでも読んでみたい内容で一杯です、皆さんも一度手にとってご覧頂けたらと思います。
あまり詳しい内容を書くと山本雄一郎氏に怒られるかもしれませんので、興味のあった箇所を簡単に知識の再確認とともに紹介してみたいと思います。
半減期24時間のユーロジンは飲むと1日中眠くなる?
目次の(4月 睡眠薬の分類と服薬指導のヒント)の一項目である、「半減期24時間のユーロジン(般:エスタゾラム)は飲むと1日中眠くなる?」などは、睡眠薬の投薬時に服薬指導をしていると一度は考えた事があるのではないでしょうか?
しかし実際に服用している患者さんは、眠り続ける事なく普通に生活を送っています。
この様に考えるのは薬剤師が薬の効果を一次速度過程であれば、血中濃度半減期(t1/2)から定常状態到達時間を判断する事から起きるものではないかと思います。
まず学生の頃に薬物動態で習ったように、薬は半減期の約4~5倍程度の時間で血中濃度が定常状態になる事を考えます。(※定常状態:体内に入ってくる薬の量と出て行く薬の量が等しい状態)
すると半減期24時間=1日のユーロジンであれば、毎日薬を同じ時間に服用すれば5日間程度すれば定常状態になります。
よって「定常状態=薬が効いている状態=眠り続ける?」という思考からくるものです。
本書ではこの辺りの疑問に関しても、非常に丁寧な説明がされています。
秋田大学の教授である苗村育郎氏の説明によると、睡眠薬は定常状態になったとしても血中濃度に準じた眠気が1日中続く事を意味しない。
脳にある覚醒機構が発動する事で、薬物影響下の睡眠状態でも日内リズムを保とうとする。
また添付文書にも「覚醒機構そのものには直接作用せず麻酔状態には至らない」との記載があります。
CCrとeGFRはどう使い分ける?
他にも目次(8月 腎機能チェックはこれで完璧!)の一つ
「CCrとeGFRをどう使い分ける?」も、添付文書や検査値を見ていて考えた事はあるのではないでしょうか?
これについても、かなり詳しく説明がされています。
まず大前提として2つの概念が記載されています。
①腎機能を正しく判断するためには、SCrよりCCr、CCrよりeGFRを使用する。
②安全性の高い薬はCCrでもeGFRどちらでもOK、ハイリスク薬はどちらを使うか慎重に考える。
安全性の高い薬:セフェム系の抗菌薬など
ハイリスク薬:タミフル、リリカ、ザイロリック、バルトレックス、DOAC、抗不整脈薬など
クレアチニンの関係する検査値として、SCr、CCr、eGFRが良く知られていると思います。それぞれの数値についておさらいしてみたいと思います。
■SCr(serum creatinine)血漿クレアチニン 正常値(0.6~1.1mg/dl)
クレアチニンは筋肉で作られる老廃物の一種で、ほとんど腎臓の糸球体から排泄されます。
よって血漿クレアチニンが高値になると腎機能が低下していると考える事ができます。
ただしクレアチニンは筋肉量に依存するため、フレイルサルコペニアなどの筋肉量の少ない高齢者ではあまり当てにできません。
筋肉量が少ないと老廃物である血漿クレアチニンも低く出てしまうので、正確性が高いとは言えません。
最近では筋肉量の影響を受けず、軽度の腎機能低下のときから上昇するとされているシスタチンCなどの検査項目もあります。
■CCr(Creatinine Clearance)クレアチニンクリアランス 正常値(70以上ml/min)
コッククロフトとゴールトの式(CG式とよばれる公式、おそらくコッククロフトさんとゴールトさんが発見した公式だと思いますが詳しくは知りません)
CG式よりSCr・年齢・体重があれば求める事ができます。
CCr(mL/min)=(140-年齢)×体重/(72×SCr)(女性は×0.85)
■eGFR(estimate glomerular filtration rate)推定糸球体濾過量 正常値(GFR≧90)
CKDの診療においては日本腎臓学会が推奨する式として、SCr・年齢・性別の3つのデータから計算される下記の式(1.73m2当たりのGFRに補正した値)が用いられる。
eGFR(mL/min/1.73 ㎡)=194 × SCr-1.094 × 年齢-0.287(女性は×0.739)
ただし、標準化された式では体表面積が1.73㎡の体型の人以外では適当ではなく、薬物動態を検討する場合は個人の実測GFRが必要です。
実測GFRは、eGFR×体表面積/1.73で推算できます。
腎機能については他にも様々なサイトでもまとめられていますが、熊本大学薬学部附属育薬フロンティアセンターの臨床薬理学分野 平田純生氏の「腎機能を正しく評価するための 10 の鉄則改訂5版」がわかり易く書かれています。
内容紹介
薬の知識、日ごろの薬局業務に活かせていますか?
わかったつもりの説明から脱し、薬の知識を踏まえた考え方「実践薬学」をマスターしよう。DI Online人気連載「薬局にソクラテスがやってきた」の著者が、実践薬学のノウハウを伝授!
「半減期24時間のユーロジンは、飲むと1日中眠くなる?」
「アーチストに、1日1回と1日2回の用法がある理由は?」
「高齢女性へのセレコックスは要注意! 」
「ARBの変更で、尿酸値が上昇したのはなぜ?」–処方監査や服薬指導といった薬局業務では、薬物動態学や薬理学の真理に関わる様々な疑問に遭遇します。きちんと理解していないと、添付文書に書かれた内容しか説明できない薬剤師に…。実践薬学では、そんな真理を日ごろの業務に活かすための考え方を養います。
ひのくにノ薬局で月1回開かれる勉強会形式で、若手薬剤師のケンシロウとあゆみさん、そしてユウさんが、添付文書情報や薬学部で学んだ知識を120%活かすための”考え方”をわかりやすく解きます。
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