ツムラの葛根湯
門前Drの処方箋で感冒様症状の場合であれば大抵はPL顆粒が処方される事が多いのですが、授乳中の婦人との事で今回は葛根湯の処方箋がやってきました。
患者さんは「先生に授乳中である旨を伝えたら、いつものPL顆粒じゃなかったんです。漢方薬ってあんまり効果を感じないんです…」と少し不満そうな様子で理由については医師から特に説明がなかったとの事でした。
今回処方されていた医療用ツムラの葛根湯では、成人1日7.5gを2~3回に分割、食前または食間です。(第2類医薬品のツムラ葛根湯とは服用方法が異なります)
- 妊婦、妊娠してる可能性のある婦人には治療上の有益性が危険性を上回る場合の投与はOK
- 授乳婦については記載なし
よってツムラ葛根湯の授乳婦への処方は添付文書上では問題がないのですが、いつものPL顆粒から変更した理由を考えてみたいと思います。
PL顆粒の添付文書
PL顆粒の添付文書には、妊婦・産婦・授乳婦等への投与について記載があります。
ちなみに妊婦とは妊娠中の女性で、産婦とは分娩中の女性の事を言います。
妊婦
(1)(12 週以内あるいは妊娠後期)又は妊娠している可能性のある婦人には,治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与すること。[サリチル酸製剤(アスピリン等)では動物試験(ラット)で催奇形作用が,また,ヒトで,妊娠後期にアスピリンを投与された患者及びその新生児に出血異常があらわれたとの報告がある。]
(2)妊娠後期の婦人へのアセトアミノフェンの投与により胎児に動脈管収縮を起こすことがある。
(3)妊娠後期のラットにアセトアミノフェンを投与した試験で,弱い胎児の動脈管収縮が報告されている。
(4)授乳婦には長期連用を避けること。[本剤中のカフェインは母乳中に容易に移行する。]
※妊娠後期とは、妊娠して8ヶ月(28週)〜10ヶ月(40週)の約3ヶ月間を言います。
(4)授乳婦についての記載は長期連用を避ければ大丈夫との事ですので、今回のPL顆粒の3日間処方であれば問題はなさそうです。
カフェインの危険性
しかしカフェインの母乳中への移行についての記載があります。
虎ノ門病院の危険度判定によると、カフェインは1日1100mg~1700mg服用した妊婦において、ラットの大量投与で観察される型の奇形が生じた報告があるとの事から、妊婦に対しての薬剤危険度は2点とされています。
しかし、1日300mg未満では胎児に対する危険性も発育遅延の可能性は少ないとの報告があり危険度は1点となっています。
ちなみにコーヒー1杯には、約60mg程度のカフェインが含まれています。
そしてPL顆粒のカフェイン含有量は60mg/gなので、4回服用しても1日240mgです。さらに母乳に移行する量は、乳児推定摂取量を9.6%と考えるとほぼ問題はない量だと考えられます。
PL顆粒は2歳以上
次に小児等への投与を見ると以下のように記載があります。
小児等への投与
(1)2歳未満の乳幼児には投与しないこと。[外国で,2 歳未満の乳幼児へのプロメタジン製剤の投与により致死的な呼吸抑制が起こったとの報告がある。](2)2 歳以上の幼児,小児に対しては,治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与すること。[小児等に対する安全性は確立していない。]
プロメタジン製剤の投与により致死的な呼吸抑制が起こったとの報告から「2歳未満の乳幼児には投与しないこと」との記載があります。
プロメタジンとは?
プロメタジンとは、抗ヒスタミン薬の一種で商品名はピレチアやヒベルナです。
鎮静薬として使用されていた今はなき向精神薬ベゲタミンの構成成分の一つとしても使用されていました。化学構造はフェノチアジン系に属するため抗ヒスタミン薬とはいえ第一世代で副作用も比較的あらわれやすい事が予想されます。
効能効果
- 感冒等上気道炎に伴うくしゃみ・咳嗽・鼻汁
- 枯草熱
- アレルギー性鼻炎や皮膚疾患に伴う瘙痒(薬疹、皮膚瘙痒症、皮膚炎・湿疹、中毒疹)
- 血管運動性浮腫
- じん麻疹だけでなく動揺病
- パーキンソニスム
- 振せん麻痺
- 麻酔前投薬
- 人工(薬物)冬眠
授乳中ということは、おそらく2歳未満だと思われます。
PL配合顆粒1g中のプロメタジンメチレンジサリチル酸塩は13.5mgです。微量とはいえ母乳に含まれる事を考えると間接的に2歳未満の乳幼児への投与と考えられます。
ちなみにプロメタジンの妊婦に対しての薬剤危険度は1点(虎ノ門病院の危険度判定)ですが、薬そのものの危険度のほか、授乳時期にも注意が必要です。
薬を代謝や排泄する能力が低いとされている新生児期である生後1~2ヶ月位までは、肝臓や腎臓の働きが十分でない為に副作用にとくに注意が必要とされています。
乳児突然死症候群(SIDS)とは?
重大な副作用の欄に、乳児突然死症候群(SIDS)の記載があります。
乳児突然死症候群(SIDS),乳児睡眠時無呼吸発作(頻度不明):プロメタジン製剤を小児(特に 2 歳未満)に投与した場合,乳児突然死症候群(SIDS)及び乳児睡眠時無呼吸発作があらわれたとの報告がある
さらに抗ヒスタミン薬は、熱性けいれんの持続時間を長くすると言われているので、乳幼児の危険性が少しでもある要因は減らした方が無難であると考えられます。
大切な子供さんに何かがあってからでは遅いので、きっと先生も「Do No Harmの原則」に従い少しでも安全性の高いものへといった気持ちから葛根湯へと切り替えたのだと思われます。
おわり