バセドウ病の治療として抗甲状腺薬のメルカゾール(チアマゾール:MMI)とヨウ化カリウム丸50mgが処方された患者さんから「カリウムについては特に何も言われてなかったんですが…」とヨウ化カリウムについての質問がありました。
薬剤師や薬学生であれば、ヨウ化カリウム(KI)と聞けばヨウ素(I)が薬の成分として主に甲状腺に働くと刷り込まれていますが、一般の方だと検査値でもなじみのあるカリウム、そして薬の名称にもあるカリウム(K)の部分が薬であると考える人がいてもおかしくはないと思います。
バセドウ病の治療方法
バセドウ病の治療には以下3つの方法があります。
- 抗甲状腺薬による薬物治療
- アイソトープ療法(放射性ヨウ素内用療法)
- 甲状腺摘出術
今回は抗甲状腺薬により甲状腺ホルモンの産生や分泌を抑制する薬物療法による治療が選択されています。
抗甲状腺薬の第一選択薬はチアマゾール
抗甲状腺治療に使用される薬剤として以下の2種類があります。
- メルカゾール(チアマゾール:MMI)
名称由来:1-methyl-2-mercaptoimidazole(化学名)に由来 - プロパジール・チウラジール(プロピルチオウラシル:PTU)
名称由来:Propylthiouracil(一般名)に由来
2019年4月に8年ぶりに改訂された「バセドウ病治療ガイドライン」では、抗甲状腺薬の第一選択薬はチアマゾール(MMI の初期投与量は 15mg/日 まで)が推奨されています。
第一選択薬であるMMIはPTUに比較して作用時間も長く(24時間以上)安全性、そして効果もしっかりと出やすいのでバセドウ病での処方を見る機会は頻繁にあります。
一方でPTUは稀に処方を見る事がありますが、その際に処方されている薬剤はプロパジールが多く、これはチウラジールとチラージン(レボチロキシンナトリウム)との間違いを防ぐために意図的に医師がプロパジールを選択している事が考えられます。
作用機序:どちらの薬剤も、サイログロブリンのチロシン残基のヨウ素化阻害する事で甲状腺ホルモンの産生を抑制する。
副作用:発疹や蕁麻疹等の軽微なもの(5~10%)は抗ヒスタミン薬で対処する事が多い。指導箋にも記載のある無顆粒球症は副作用としての頻度は少ない(0.2%~0.5%)が、2か月の間は2週間ごとに肝機能と血球検査を行い副作用のチェック(発熱、咽頭痛、関節痛など感冒様症状や発疹、黄疸)をする必要があります。
ヨウ化カリウム(KI)とは?
ヨウ化カリウム(KI)は東日本大震災の時に、放射性ヨウ素による甲状腺の内部被曝の予防や低減を目的(ヨウ化カリウムは放射性ヨウ素と競合する事で甲状腺濾胞細胞への取り込みを抑制します)として日医工さんより配布された事でも有名かと思われます。
一般的にはヨウ素を体内に取り入れた場合、ヨウ素が不足している時には甲状腺機能を亢進させますが、甲状腺機能亢進症においては体内でのヨウ素の量を急激に増やす事によりサイクリックAMPを介した甲状腺刺激ホルモン(TSH)の作用を減弱させるため甲状腺の機能を一時的に抑制する効果があります。
またヨウ素は気管支粘膜分泌を促進し去痰作用を現す事で慢性気管支炎や喘息に伴う喀痰喀出困難に使用されることや、梅毒患者の肉芽組織に対する選択的な作用により第三期梅毒患者のゴム腫の吸収促進に使用される事もあります。
効能効果
- 甲状腺腫 (甲状腺機能亢進症を伴うもの)
- 慢性気管支炎、喘息に伴う喀痰喀出困難
- 第三期梅毒
- 放射性ヨウ素による甲状腺の内部被曝の予防・低減
バセドウ病治療ガイドラインでは、初期治療からの無機ヨード(ヨウ化カリウム:KI)の単独治療やチアマゾールとの併用療法も有効とされています。これはチアマゾール30mg投与と比較した場合でも、チアマゾール+ヨウ化カリウムの併用療法が効果安全性ともに優れているからです。
参考資料:日本甲状腺学会「バセドウ病治療ガイドライン 2019」、日医工株式会社「ヨウ化カリウム丸50mg」インタビューフォーム、「今日の治療薬 甲状腺疾患治療薬」
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