アルコール依存症の治療薬
アルコール依存症の新薬「セリンクロ錠10mg」について大塚製薬さんの勉強会がありましたので備忘録として。
アルコール依存症の薬としては、大きく分けると「抗酒薬」と「飲酒欲求を抑制する薬」の二種類があります。
アルデヒド脱水素酵素(ALDH)を阻害して、血中のアセトアルデヒドを上昇させる事で悪心や嘔吐、頭痛などの不快感を起こして飲酒を不快なものとして認識させる薬。
- ノックビン(ジスルフィラム)
- シアナマイド(シアナミド)
アルコールを飲むとかなり気分が悪くなるので、高度アルコール依存症の方は抗酒薬自体を飲まなくなってしまう可能性もあります。
よって「お酒を絶対にやめる!」という強い意志も必要になります。
脳内のNMDA受容体を阻害する事で、飲酒欲求を抑制します。
きちんと断酒が出来ている患者が服用すると断酒率が高くなると言われています。
- レグテクト(アカンプロサート)
それでは今回発売されたセリンクロ錠は、どちらの分類の治療薬になるのでしょうか?
セリンクロ(ナルメフェン塩酸塩水和物)錠とは?
今回の新薬であるセリンクロ(ナルメフェン)は海外で以前から使用されていましたが、日本でも承認され2019年3月から販売開始となりました。
名称の由来は、Select, Increase and Controlの3文字からなる造語との事です。
セリンクロの作用機序は、主にオピオイド受容体を阻害する事で、飲酒量の低減作用を発揮すると考えられています。
μオピオイド受容体・δオピオイド受容体に対しては拮抗薬として、κオピオイド受容体に対しては部分的作動薬として作用します。
これらの受容体に作用すると、飲酒する事での報酬効果が抑制されます。
結果的に飲酒による高揚感がなくなるそうです。
しかしながら明確な機序は不明との事。
今までの薬は飲酒で気分が悪くなったり、断酒する必要があったりとアルコール依存症の患者さんにとっては苦しいものだったようです。
しかしセリンクロは、飲酒する1~2時間前に服用する事で、アルコールによる高揚感をなくして
おやおや?お酒を飲んでも楽しくならないぞ…
という気持ちにさせる薬だそうです。
効能効果で、「アルコール依存症患者による飲酒量の低減」と記載されているように徐々に飲酒を減らして断酒させる薬(減酒薬)という事です。
アルコール依存が重症であれば断酒そのものが出来ないので、断酒が必要な「レグテクト」の前段階で使用するような位置づけになるかと思います。
セリンクロ添付文書より基本事項
用法用量
成人:1回10mgを飲酒1~2時間前に経口投与
ただし、1日1回まで
症状により適宜増量することができる【1日最大量20 ㎎】
併用禁忌
オピオイド系薬剤(鎮痛、麻酔)
セリンクロは、μオピオイド受容体への拮抗作用を有します。
よって、オピオイド系薬剤と併用した場合競合的に阻害し、鎮痛・麻酔目的で使用されるオピオイド受容体作動薬の離脱症状(自律神経症状、振戦等)や、過量投与のリスクが高くなるおそれがある。
医療用麻薬だけでなく、整形外科などで多く処方されているトラマドールを含むトラムセット配合錠などにも注意が必要かと思われます。
セリンクロ勉強会での質疑応答
Q.高揚感がなくなるでは、薬の服用をしなくなる患者がいるのでは?
A.本気でアルコール依存症を治したい人が服用する薬です。
Q.お酒を飲みたいと思わない時も服用する必要があるのか?
A.お酒を飲みたくない時は服用する必要はない。
Q.副作用としてどんなものがあるのか?
A.悪心、嘔吐、めまい、傾眠など。
Q.嘔吐はアルコールでおきているのでは?
A.アルコールでもおこりえるので、セリンクロで起きているのかどうかはわからない。
Q.講習を受講した医師だけが処方できる薬?
A.アルコール依存症の十分な診療及び心理社会的治療の経験のない医師は、アルコール依存症の診断や心理社会的治療に関する講習会等に参加してください。
Q.BRENDA法とは?
A.心理社会的治療の事で、代表的な介入法として以下の方法が有効であると言われています。
- 認知行動療法
- 動機づけ面接法
- コーピングスキルトレーニングなど
日経DIの2019年5月号にも、日経DIクイズ(6)服薬指導「セリンクロを飲酒前に飲み忘れたら」のクイズがちょうど良いタイミングで載っていました。
その場合の服薬指導の方法も一度拝見してみたいと思います。
ポイント
- 減酒薬である事
- 飲酒の1~2時間前に服用する事
- お酒を飲んでる最中に気がついた時は直ぐ飲む
- お酒を飲み終えた後に気がついた時は飲まない
参考:厚生労働省 eーヘルスネット:アルコール依存症の心理・社会的治療
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