勉強会で出たうなぎ弁当
先日某メーカーさん主催の勉強会でうなぎ弁当をいただく機会がありました。昨今うなぎの価格が高騰しているので自分でうなぎを食べる事もあまりないので嬉しくて仕方ありませんでした。
しかし門前医院の午前診が押した事、そして勉強会の開始時間が間近に迫っていたので少しあわててうなぎご飯を食べました。
何だか喉に違和感があったのですがそのまま勉強会に臨みました。
勉強会自体は一通り説明を聞いて、質疑応答も終わり無事に終了しました。
しかし喉の違和感は続いたままです、そしてなんだかチクチクとします。
唾液を飲み込むときに少し痛みもあります。
「これは、うなぎの骨が喉に刺さっているんだ!」そう気がつくのに時間はかかりませんでした。
しかし今日は午後診終了までの長丁場です、「とりあえず今日一日を何とかやり過ごして家に帰って鏡で喉の奥を見れば骨が刺さっているのが見えて抜いて終了だよきっと…。」
その時はそう思って仕事をやり終えました。
自宅に帰ってからの戦い(1日目)
チクチク感に堪えながらも自宅に帰り即座に懐中電灯を手に持って何も言わず洗面所にこもりました。
大きく口を開けてのどの奥を照らしながら覗き込みました。
「あー!」と言いながら見ても何も見つかりません。
どうやら喉のもっと奥で引っかかっている様子です、仕方がありません作戦変更です。
インターネットで「うなぎの骨 喉」と検索して対策を練る事にしました。
世間で今これほど喉に刺さったうなぎの骨で検索をかけているのは私ぐらいだろうなぁ、普通に生活しているみんなが幸せそうに見えます。
検索でよく出てくる対策は「ごはんの塊を飲み込む」が出てきました。
この作戦は太古の昔からよく言われていますが、うなぎの骨が刺さった後も飲食をしているのでたぶん駄目だろうとすぐにわかりました。
ご飯の塊がさらに骨を押し込む結果になる事も考えられます。
次に出てきたのが「お酢を飲む事で骨が溶ける」でした。
お酢が喉を通り過ぎる一瞬で溶ける筈がないだろう、これも却下しました。次の作戦は「2~3日ほっておけばそのうち溶けてなくなる」です。
しかし取れなかったら粘膜下に埋没してファイバースコープやCTで検査して手術して採る事になったという事例などが見つかり怖くなりました。
何より何をやっていてもチクチクが気になって仕方がありません。
監査中にチクチクのせいでミスをしたら患者さんに迷惑がかかります、なんとしても骨を抜く必要があります。
今晩寝て明日起きても痛かったら耳鼻咽喉科で抜いてもらうしかないという結論に達しました。
そうして晩御飯もそこそこにお風呂に入って眠りにつきました。
うなぎのチクチク騒動で疲れていたのか、その日はぐっすりと眠ることができました。
寝て起きて治っていたらいいなぁ…(2日目)
そして次の日の朝・・・
目が覚めてまず洗面所にむかってうがいをして唾液を飲み込んでみました。
「うぐっ!」
やはり痛みがありました…。
今日は仕事終わりが17時ですので急げば午後診のやっている病院に間に合います。その日のお昼休みにスマホでどこの耳鼻科に行くかを検索しました。
グーグルマップで検索すると地域の耳鼻咽喉科が出てきます。グーグルマップでは病院の評価が☆の個数でわかります。
こういった評価の多くは病院に対して不満を持っている人が書き込みをするので、悪い評価をそれほど気にする事はないのですがどうしても見てしまいます。
近隣の耳鼻咽喉科の評価はどうかなぁ…、なんと☆一つばかりです。
書き込みには「先生が自慢ばっかりする」、「二度と行きたくない」等と、ひどい書き込みが目立ちます。
こういったのを見ていると結局どこにも怖くて行く気がなくなりました。
仕方がないので耳鼻咽喉科で骨を抜いてもらった人の経験談をブログで読んでいました。
どうやら抜く骨の場所によって診察代が1000円であるところもあれば、ファイバースコープを使ってのどの奥の方の骨を抜いた場合などは3000円であったり、最高で7000円かかったという書き込みも見つかりました。
一軒目の耳鼻科で見てもらっても「何もありませんでした」とお金だけ取られて、2件目の耳鼻科でようやく骨を発見されたので、二度手間で二倍以上のお金を取られたという書き込みもありました。
この時点でどの医院にいけば良いのか、そもそも耳鼻科に行く必要があるのか?さっぱりわからなくなってしまいました。
そして二日目も検索疲れで仕事終わりに病院に行く元気もなくなりそのまま帰宅しました、まだチクチクと痛みます。
帰宅後は喉に優しい食事をしてから、再び解決策をインターネットで検索することにしました。
私はこのまま病院に行かず1週間くらいほっておけば溶けてなくなるんじゃないかな?という、ただの願望にも近い作戦で行く覚悟が出来てきました。
そして
どうせなら溶ける根拠を探し出して自信を持って1週間をすごす事にしよう、化膿してきたらその時初めて病院に行く事にしよう!
と思いました。
そうと決まったらまずは口腔内ででている消化酵素を調べてみようと考えました。
記憶では唾液(PH6.6~7.0)にはでんぷんを消化するアミラーゼがあるから骨を溶かす他の消化酵素もあるんじゃないかな?と考えました。
調べると唾液中にはリパーゼとマルターゼという消化酵素があるのですが、脂質や糖を分解消化するだけなので骨は難しそうです。
そもそも胃中で骨が溶けるのは、消化酵素であるペプシンの働きというよりは胃液に含まれる胃酸(PH1.0~1.5)が強酸性である塩酸(HCl)を含むからです。
溶かすためには骨の構成成分であるリン酸カルシウムやリン酸マグネシウムを分解して溶出させる必要があります。
そうなると酸性条件化を作り出す、お酢(酢酸)を少しづつ飲めば骨との接触時間も増えてCaやPが溶出する筈です。
完全に溶けるまでは行かずとも、徐々に軟らかく細くなってスルッと抜けるのではないか?と思いはじめました。
昔から調理方法で魚のマリネや南蛮漬といった酢潰処理があります。
生臭さを消す目的もあるでしょうが、たしか骨も柔らかかった気がします。
そして魚の調理方法について調べていると日本調理科学会誌に魚骨の調理による軟化という論文が見つかりました。
骨の無機成分は,リン酸カルシウムが主要成分であり,この大部分はハイドロキシアパタイトの結晶である(ArnaudandSanchez1990)といわれる。
しかし,骨を酢酸溶液に浸漬したときに4時間までは骨アパタイトの結晶性にほとんど変化がみられなかったが,カルシウムやリンは40~60%溶出していたことから,マアジの骨には,アパタイトの結晶になっていないリン酸カルシウムが存在することが推察される。
魚肉は,酢漬にすると酸性で働くタンパク質分解酵素が活性化し,この酵素は主としてカテプシンDであろうと考えられている(下村ら1985)。
骨組織からは、カテプシンLに似たプロテアーゼが精製されている(木南1995)という報告,カテプシンκが破骨細胞に特異的に発現されている(Tezuka4α/.1994)という報告がある。
魚骨の調理による軟化より引用(抜粋)
論文からマアジ骨の酢酸浸漬による破断エネルギーの変化のグラフを見ても加熱骨だけでなく生骨も酢酸への浸漬時間が数時間で急激に低下しています。
たんぱく質についても、マアジ骨の酢酸および水浸漬による液中へのタンパク質溶出量の変化をみても、わずか30分でタンパク質の溶出がみられます。
これは期待できそうです。
早速、飲む黒酢を買ってきてちびりちびりと飲む事にしました。
光明が見えたのでこの日は安心して眠りにつくことができました。
お酢作戦は効くのか?(3日目)
そして3日目の朝…
目が覚めてまず洗面所にむかってうがいをして唾液を飲み込んでみました。
「ヴッ!」
やはり痛みがあります。
しかし昨日の夜から初めてまだお酢の接触時間は微々たる物です。
再び朝からお酢をちびりちびり飲んで出勤しました。
そして仕事中はお酢でもお茶でなく、カルピスウォーターのペットボトルをちびりちびり飲む作戦です。
とある中学生の化学実験で、炭酸水とカルピスで魚の骨を浸漬した比較実験結果によると、カルピスのほうが軟らかくなったという記載を見てカルピスもこの戦いに参戦させることにしました。
清涼飲料水によく含まれている酸味料だけでなく乳酸菌もきっと何らかの働きをしているのではないでしょうか?
またも希望的観測ですが藁にもすがる思いです。
そしてちびりちびりのんでお昼休みになりました、推定接触時間は4時間を超えている筈です。
お昼ごはんを恐る恐る食べました…。
「おっ?」
な、な、なんと!固形物を飲み込んでも痛みがありません。
「あれ?」もう一度飲み込んでも痛くありませんでした。
「わーい、よかったぁ!」
こうして私とうなぎの骨の戦いは3日目で幕を閉じました。
よく言われるように実は最初から抜けていて違和感だけが残っていて3日目にして違和感から回復しただけなのかもしれません。
しかし本当に良かった…
今度からも確実に骨をかみ砕いてから食するようにしたいと思います。
※嘘のような本当の話ですが、骨の大きさや刺さりどころによっては大変な事になるかもしれないので絶対にこの作戦は真似しないで下さい。
また、お酢をずっと飲み続けて体調を壊したり、歯のカルシウムが溶け出したりと予想しないトラブルに見舞われる可能性があるので絶対にこの作戦は真似しないで下さい。
おわり
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