耳鼻咽喉科、呼吸器内科など様々な門前薬局でマクロライド系の抗菌薬の処方箋を受け取る事があるかと思われます。
マクロライド系の抗菌薬は、メチル側鎖を有するラクトン環を基本骨格とし14員環~16員環の薬物があります。
抗菌作用の機序は、細菌のリボソーム50Sサブユニットに結合して、細菌のタンパク合成を阻害し静菌的、作用条件(ph5.5~8.5のアルカリ域)や菌種によっては殺菌的に働きます。
比較的、肺や肝臓などの臓器で濃度が高く、細胞内移行性は高いとされています。
これらの抗菌作用とは別に、びまん性汎細気管支炎(DPB)や気管支拡張症、慢性副鼻腔炎、滲出性中耳炎などの感染症にマクロライド系の少量長期投与の有効性が報告されています。
また慢性の呼吸器感染症である肺MAC症(非結核性抗酸菌症)においてもクラリスロマイシン等のマクロライド系の抗菌薬が使用されています。
しかし肺MAC症では、非結核性抗酸菌(結核菌やライ菌以外の抗酸菌の総称)の一種であるMAC(Mycobacterium-avium complex)のクラリスロマイシン耐性化の問題があります。
近年これらの病態における処方として、耳鼻咽喉科や呼吸器内科でマクロライドの長期投与の処方箋が数ヶ月から数年にわたって処方された結果、マクロライド系に耐性を持ったMAC(非結核性抗酸菌の一種)、黄色ブドウ球菌(MRSA等)や肺炎球菌、そしてマイコプラズマにも耐性菌が増加していると言われています。
マクロライド系抗菌薬の種類は?
14員環薬
- エリスロマイシン(EM)
- クラリスロマイシン(CAM)
- ロキシスロマイシン(RXM)
15員環薬
- アジスロマイシン(AZM)
16員環薬
- ジョサマイシン(JM)
- スピラマイシン酢酸エステル(SPM)
- ロキタマイシン(RKM)
ガイドラインで推奨されているのは?
社会保険診療報酬支払基金のサイトを見ると「原則として、クラリスロマイシンを好中球性炎症性気道疾患に対して処方した場合、当該使用事例を審査上認める。」と通知している事からも、クラリスロマイシンが主流となっています。
非結核性抗酸菌症(MAC)
・HIV陰性患者のMACによる肺感染症に対しては、結節・気管支拡張型の場合はクラリスロマイシンおよびRFPおよびEBを投与する(AI)
・重症例、空洞型病変を有する場合ではさらにSMまたはKMの筋注を追加する(BIV)
・治療期間は培養検査が陰性化してから最低12ヵ月間とするが、最適な治療期間については明確な基準がない(BIV)
副鼻腔気管支症候群(sinobronchial syndrome:SBS)
慢性反復性の好中球性気道炎症を、上気道の炎症性疾患である慢性副鼻腔炎と、下気道の炎症性疾患であるCB、BE、DPB等を合併した病態。咳喘息やアトピー咳嗽の次に多い慢性咳嗽の重要な鑑別疾患とされる。
・慢性気管支炎(chronic bronchitis:CB)
※慢性副鼻腔炎を伴わない喫煙が原因の慢性気管支炎とは明確に区別する。
・気管支拡張症(bronchiectasis:BE)
・びまん性汎細気管支炎(diffuse panbronchiolitis:DPB)
びまん性汎細気管支炎(DPB)に対する治療の第一選択は、エリスロマイシン1回200mgを1日2~3回(AII)
エリスロマイシン無効例や、投与継続困難例に対する第二選択薬として、クラリスロマイシン1回200mgを1日1~2回またはロキシスロマイシン1回150mgを1日1~2回に変更する(AIII)
14 員環マクロライド系薬による治療難渋例では、15員環マクロライド系薬であるアジスロマイシン1回250mg1週2~3回を代替治療として考慮する(BIII)
まずエリスロマイシン内服を 6 ヶ月間継続して臨床効果を判定する。自覚症状や検査所見が改善したまま安定すれば、合計2年間治療を継続する(BIII)
急性増悪時は,H. influenzae,S. pneumoniae,M. catarrhalis,P. aeruginosa をカバーできるような抗菌薬を追加投与する(BIII)
参考文献:JAID/JSC 感染症治療ガイドライン・咳嗽に関するガイドライン第2版
DPBのマクロライド療法の第一選択薬はエリスロマイシンを用いるよう推奨されています。
しかしエリスロマイシンが副作用などで使用できない場合にクラリスロマイシンを選択する場合は、「MAC感染の有無を複数回の喀痰の抗酸菌培養などで確認することが必要」となります。
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