「インデラル」はβ受容体遮断剤
インデラル(プロプラノロール塩酸塩)は 1964 年に、現在のアストラゼネカ社で開発された交感神経β受容体遮断剤です。
古くからある薬であり、狭心症、不整脈の治療薬として製造承認され、高血圧に対する効果も確認されました。
一般名:プロプラノロール塩酸塩(Propranolol Hydrochloride)
化学名:(2RS)-1-(1-Methylethyl)amino-3-(naphthalen-1-yloxy)propan-2-olmonohydrochloride
分子式:C16H21NO2・HCl
様々なβ遮断薬が存在する現在でも、インデラル(プロプラノロール)の処方はまだまだ目にする機会があるかと思われます。
効能効果としては、添付文書に以下の記載があります。
- 本態性高血圧症(軽症~中等症)
- 狭心症
- 褐色細胞腫
- 手術時期外収縮(上室性、心室性)、発作性頻拍の予防、頻拍性心房細動(徐脈効果)、洞性頻脈、新鮮心房細動、発作性心房細動の予防
- 片頭痛発作の発症抑制
- 右心室流出路狭窄による低酸素発作の発症抑制
当初は「片頭痛発作の発症抑制」については適応外使用されていました。
しかし日本頭痛学会等による「片頭痛発作の発症抑制」の効能追加要望に基づいて、2013年2月に追加承認がされました。
「片頭痛発作の発症抑制」の用法用量
まず「片頭痛発作の発症抑制」での使用は、「片頭痛発作の急性期治療のみでは日常生活に支障をきたしている患者にのみ投与すること」とされています。
用法用量:成人にはプロプラノロール塩酸塩として…
1日20~30mgより投与をはじめ
効果が不十分な場合は60mgまで漸増
1日2回~3回に分服
ガイドラインでもインデラル(プロプラノロール)の、片頭痛予防効果は高く評価され、欧米では広く臨床使用されています。
しかしインデラルには禁忌の項目が全部で13もあります。
【禁忌】(次の患者には投与しないこと)
1. 本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者
2.気管支喘息、気管支痙攣のおそれのある患者[気管支を収縮し、喘息症状が誘発又は悪化するおそれがある。]
3.糖尿病性ケトアシドーシス、代謝性アシドーシスのある患者[アシドーシスによる心筋収縮力の抑制を増強するおそれがある。]
4.高度又は症状を呈する徐脈、房室ブロック(Ⅱ、Ⅲ度)、洞房ブロック、洞不全症候群のある患者[これらの症状が悪化するおそれがある。]
5.心原性ショックの患者[心機能を抑制し、症状が悪化するおそれがある。]
6.肺高血圧による右心不全のある患者[心機能を抑制し、症状が悪化するおそれがある。]
7.うっ血性心不全のある患者[心機能を抑制し、症状が悪化するおそれがある。]
8. 低血圧症の患者[心機能を抑制し、症状が悪化するおそれがある。]
9.長期間絶食状態の患者[低血糖症状を起こしやすく、かつその症状をマスクし、発見を遅らせる危険性がある。]
10.重度の末梢循環障害のある患者(壊疽等)[症状が悪化するおそれがある。]
11.未治療の褐色細胞腫の患者(「用法・用量に関連する使用上の注意」の項参照)
12. 異型狭心症の患者[症状が悪化するおそれがある。]
13. リザトリプタン安息香酸塩を投与中の患者(「相互作用」の項参照)
2.)の気管支喘息は、βブロッカーではおなじみの項目になります。
注意すべきは、(13)リザトリプタン安息香酸塩を投与中の患者との併用禁忌です。
13という数字は「13日の金曜日」でもお馴染みですが、西洋においては「トリスカイデカフォビア:13恐怖症」と言われ、忌み避けられる事が多い数字です。
ジェイソンのおかげで、「13日の金曜日」はイエスキリストの処刑された日だと間違って認識してしまっていたのですが、13が忌み嫌われる本当の理由は違うようです。
関係ない話になってしまいましたが、とにかく(13)マクサルト併用禁忌に注意しましょう。
マクサルト(リザトリプタン安息香酸塩)とは?
マクサルトは(リザトリプタン安息香酸塩)は、第二世代のトリプタン系5-HT₁B/D受容体作動型の片頭痛治療薬です。
特徴として脂溶性で中枢への移行性が高い薬で、頭痛発現時に1回10mgを服用します。
効果不十分時には、前回投与から2時間以上空けて追加投与が可能です。(1日20mg以内)またRPD錠と呼ばれる口腔内崩壊錠もあります。
マクサルトの名称の由来
maximum altitude(登山、飛行用語で最高高度、最高到達点を示す)に由来しています。
「高い到達点への挑戦」の意味合いからも、山登りが大好きな人にはとても覚えやすい名前ですね。
インデラルと禁忌の理由は?
インデラル(プロプラノロール)を投与中、投与中止から錠剤で24時間、徐放製剤で48時間が経過していない患者どちらの薬剤も代謝にはA型モノアミン酸化酵素(MAO)が関与するので、代謝が阻害され、消失半減期が延長しAUCが増加して作用増強される可能性があります。
とはいえ継続して服用している事の多いインデラル(プロプラノロール)を中止する事は少ないかと思われるので、マクサルトを別のトリプタン系の片頭痛治療薬に変更を依頼する事が多いのかなと思います。
レルパックス(エレトリプタン)は主にチトクロームP450 3A4により代謝され、アマージ(ナラトリプタン)はCYP1A2、CYP2C9、CYP2D6、CYP2E1、CYP3A4/5などの複数のCYP分子種で代謝されるので問題はなさそうです。
ゾーミッグ(ゾルミトリプタン)は主に肝臓でCYP1A2及びA型モノアミン酸化酵素(MAO)により代謝され尿中及び糞中に排泄されるので禁忌ではないですが注意が必要かもしれません。
循環器内科などでインデラル(プロプラノロール)を服用している患者さんに、初めて偏頭痛治療でマクサルトが出た場合などには気をつけましょう。
また片頭痛ではインデラル、マクサルトのどちらの薬剤も使用する事から、禁忌である事に気が付かず処方される事が稀にあるので注意したいと思います。
インデラルとマクサルトの併用禁忌ゴロ
よろしければ、語呂を作ったので是非ご利用ください。
インドには標高8,586m、世界第3位の高さを誇る「カンチェンジュンガ」があります。
頭痛に良い食材とは?
頭痛がひどい場合は薬に頼る事も必要ですが、普段からの食事に偏りがある人は食生活を見直してみる事も大切です。
栄養素としてマグネシウムやビタミンB2、セロトニンの整合性に必要なトリプトファンなどを積極的に取れる食事を心がけましょう。
患者さんにもトリプタン系の薬剤がセロトニン受容体に働く薬である事を説明すれば、栄養学的に生合成される脳内セロトニンの材料となるトリプトファンを摂取する大切さが伝わるかもしれません。
マグネシウム:大豆製品、魚介類、海藻、ナッツ類など
- 脳血管の緊張を緩和させ、炎症を起こす物質の合成や放出を防ぐ
- ビタミンB群の働きを助け、脳や神経の興奮を鎮めて精神を安定させる
- 不足すると血管の痙攣を招き、痛みに敏感になり易い
ビタミンB2:レバー、鰻、納豆、玉子、鴨肉、鯖、ごまなど
- 片頭痛の発生を抑えるセロトニンの放出を促す
トリプトファン:大豆製品、乳製品、肉類、魚介類、穀類、ごま、ナッツ類、鯖など
- アミノ酸(トリプトファン)を代謝する過程で合成されるセロトニンは痛みに対する感覚を抑える作用がある
ビタミンA、C、E:ほうれん草、キャベツ、苺、大豆、落花生、トマト、緑黄色野菜など
- 抗酸化力が活性酸素除去に働きかける作用がある
エーザイ頭痛レシピより引用
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